第一話
「久しぶりね、透」
自分の目を疑った。
目の前にはここにいるはずの無い少女が立っていた。
驚きのあまり呼吸をすることさえ忘れてしまったほどだ。
「ちょっと、いつまでぼーっとしてるつもりなの?」
彼女の言葉で現実に引き戻される。ずっと黙ってたせいか、どうやらご機嫌ナナメらしい。
「あ、ああ、久しぶりだな……愛莉。悪い、突然だったから驚きすぎて言葉が出てこなかった」
「そう。私の知ってる頃の透とあまり変わりないようで安心したわ」
「それよりいきなりどうしたんだよ。お前が引っ越してから一度も会ってないから五年振りくらいじゃないか?」
「そうね、会いに来たかったけどなかなかそうもいかなくて……ってそうじゃなくて、聞きたいことがあるの!」
笑ったり落ち込んだり相変わらず忙しいやつだな、そんなことを考えていたところ、彼女は予想だにしないことを言ってきた。
「ねえ透……あの約束ってまだ有効かしら?」
頬を赤く染め、上目遣いでこちらを見ながら、そう質問してきたのだった。
俺が彼女、愛莉交わした約束――そう言われて思い出すのは、彼女の引越しの前日の会話しかない。
「あー、お前あれ覚えてたのか……」
「馬鹿なの!? 忘れるわけないじゃない!」
「そりゃ俺も覚えてるけど、忘れたくないような、無かったことにしたいような何とも言えないものだからな……」
「あなたが忘れても私が絶対に忘れてやるもんですか。で、そこんとこどうなの?」
俺は一拍置いてから答えた。
「ああ、今でも有効だよ」
「そう、ならよかったわ。透、話があるの」
真剣な顔をした彼女が俺の目をしっかりと見据えて言う。
「私と……結婚を前提にお付き合いしてください」




