チュートリアル(2)
バカバカバカバカ
誰だよ天才だとか言ったやつ
どこが天才だよ。
自分で自分苦しめてるじゃん、なに現実見せてんだよ。
一番最初に否定したじゃんゲームじゃないって。
確かにゲームじゃなかった。
違う。
正確には’ゲームをプレイしている”のではなかった。
何やら私は
「うわぁ、テンプレ」
ゲームの世界にいるらしい。
もちろん現実である。
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呆然と自分が掘った穴を三角座りしながら見つめていたら、気づけば夕日が私を照らしていた。
ゲームの世界にいる。
それは、生きて帰るためには頭に置いておかなければならない事案だが、今の私はまだ認めてはいなかった。
『たまたま私が知らないだけでそういう国名があったのだろう』
その国はもちろん地球にあることを前提にしている。
地球であっても国境を越えていたら帰るのには苦労しそうだがそれでもよかった。
だって、地球という星ですら無かったら帰りようが無いじゃないか。
しかも、呼吸もできるし植物も生えている。太陽も沈むし月も見え始めた。こんなに地球に似通った環境だ。
こんな地球に瓜二つのような星を私は知らない。
聞いたことがある惑星の中には人が住めそうな星はなかった。
ならば、行き着く先は一つ。
何億光年かけて宇宙をさまよったとしても、”帰れない”。
認めたい訳ないじゃないか。
かえれない?ふざけんな。あと一年JKは残ってんだぞ。
青春を謳歌するつもりもなかったが、JKをやめたいと思ったこともなかった。
親に甘えて、好きなことを好きなだけして、でもお小遣いは貰えて。
働かなくても動かなくても生きていける。
そんな生活を続けていけるはずだったのだ。
なのに、今はどうだ。
夕日に照らされながら穴相手に涙を浮かべている始末だ。
神様は意地悪だ。
この世界に連れてくるにしてももう少し後でもよかったではないか。
まだゲームを始めてすらいなかった。
始めていたら。ハマって攻略に乗り出していたら。もっとこの世界の知識を持った状態でここに来ていたら。
もしかしたら少しは挑戦する気にもなったかもしれない。
しかし、何度も言うが私はまだ始めてすらいなかった。
行ったのは設定だけ。こんな状態で希望が抱けるわけがない。
帰りたいとしか思わない。
自分が掘った穴を見つめてどれくらいの時がたったのか。
少し冷静に考えられる自分に戻ってきた。
今はうじうじ帰りたいを連呼している場合ではない。
言っていれば帰れるのなら、いくらでも言おう。
しかしそうではない。
今どれだけ元の世界に思いを馳せても、私の現実世界はここだ。
それだけは見誤ってはいけない。
死にたくなければ這いつくばってでも生きるしかないのだ。
よし、と声に出し勢いよく己の顔を叩いた。
ぱしっと乾いた音がした後、気合を入れて立ち上がる。ついでに掘った穴を埋めておく。
早く歩き出したいがまずは現状の把握だ。
認めたくはないが仮にこの国がミリタリアだったとしよう。
だとしたら、あのオンラインゲームの設定画面が絶対に関係してくるだろう。
思い出せ思い出すんだ。
半分はノリだったが、半分は後々のゲーム進行やキャラに影響が出るといやだと思い真剣に考えていた。
ならば思い出せるはずだ。
確か最初は名前や身長などの個人情報で、その後好きなものシリーズだった…ハズ。
たしか、好きな色やスポーツなんかを聞かれたよね。
質問がわかれば答えはおのずと出てくる。
今私は上から下まで真っ白な装備を付けている。
ブーツからポンチョまで全部白。
少し高級感の漂う白色の皮を用いたブーツ。
プリーツの入ったこれまた白色のスカート。
ポンチョはフード付きで襟元からは紐についたぼんぼりがぶら下がっている。
遠くからでも一発で見つけることが出来そうだ。
いまのところするつもりはないが逆に言えば隠密行動はしにくい。
これらの装備の色は明らかあの質問から来ているのだろう。
好きな色:白
そしてこの装備たちはアバター設定で決めた装備たちだった。
初期設定の装備だとしてもなかなかいいセンスしてる。
ほんと、ネタに走らなくて良かった。
思い出そうとしていたらどんどん思い出してきた。
好きな言語:日本語
「過去の自分ナアアアアイッス!」
ここまでの流れならばここの言語は日本語で決まりだろう。
日本語ならば知らない言語に右往左往する必要も、悪い人に騙されることなんて起きないはずだ。
とりあえず、話が通じれば交渉ができる。
交渉が出来れば、一晩泊めてもらうことも可能かもしれない。
そうと決まれば、民家を探すしかないだろう。
こんな草原で野宿なんて勘弁だ。
いくらどこでも寝れることが特技といっても、こんな場所で寝たいとは思わない。
思い立ったら即行動が座右の銘な私は早速気が向くままに足を動かし始めた。
なかなかチュートリアルが終わりません。