チュートリアル(1)
目を開けるとそこは外の世界でした。
さっきまで座っていた部屋ではなく、周りはだだっ広い草原。
え、うん、草原。
そう、草原なんだよ。
足首ほどの長さの草が青々と生えている。
その草が360度どこを見渡しても境界線までびっしりと生えていた。
なんで私は草むらに突っ立てるの?
ここはどこだい?私の渾身のPCはどこだい?いや、まず、家はどこだい?
・・・・・・
と、と、とりあえず。
おおおおお落ち着こう!!!!
おちつくんだきみぃぃぃ
何故か、ちょっと禿げたねちっこそうな校長を思い出させる口調で自分をなだめる。
そうそう、学園物の恋愛小説とかで時々出てくる厭味ったらしいでぶった校長ね。
ああいう奴って結構色んな小説に出てくるよね。
良い意味で人気者だよね。なりたくはないけど。
いやいやいやいや、そんなこと言ってる場合か自分。
全然関係ないことを考えながら落ち着くため、立っていたところに座り込んだ。
まず、これが現実世界かどうか確認しよう。
とりあえず生えてる草を触ってみた。
意識して見つめる。
「うわぁ」
触った感触や冷たさ、匂いもすべて感じることが出来た。
ピンと張った表面はつるつるしており、葉緑体が存在していることを表すように色は緑色だ。
どこか植物らしい香りが漂う。葉脈までしっかりと観察する。
リアルな夢か、現実か。
どれだけ直近の記憶を掘り起こしてもゲーム画面しか思い出せないがゲームということはないだろう。
何故なら今の時代でこれほどまでにリアルに寄せたゲームが存在しないからだ。
360度全てがゲームというまでなら再現できているらしいが、触覚や嗅覚まで再現できるとは聞いたことがなかった。
ということでゲームでないのなら、夢か現実どちらかだろうと結論付けたのだ。
ならば、夢か現実どちらかである。
両方のうち片方であることには変わりはないが、どちらかはまだわからない。
夢ならば場面が所々で変わり、自分の意思も制御しづらいだろうが
まだ気がついてからそんなに経っていないから判断しづらい。
今のところ、自分で考え行動しているが、この直後強制的に場面変更する、なんてこともあるかもしれない。
現実ならば、家から目を閉じていた一瞬でこんなところまで来た方法がわからないし
もし、記憶がないだけで眠らされたりして無理やり運ばれたとしても、理由がわからない。
誘拐ならば身代金目的が妥当だと思うが、獲物をこんなところに置いてけぼりにする馬鹿な誘拐犯なんているのだろうか、いやいない。
何故か反語になってしまったが、現実的に考えても判断を下すことが出来なかった。
いや、考えた末、”判断を下したくない”という答えが出たのだ。
冷静な自分が警報を鳴らしているが、頭の中が靄がかかったようにその先に行かしてくれない。
しかし、選択肢の中で濃厚なのは現実であるというのは半分冷静な自分が下した結論だ。
ふいに意識がクリアになって、目の前に先ほどまで見ていた草が現れた。
この草の植生を調べればもしかしたら自分の位置が特定できるかも、なんていう冷静な自分だったならば試さないであろうことを考えついた。
そのため、もう一度草をじっくり見つめてみる。
形や色、根の張り方や花が咲くのかどうかなどをよく調べる。
色々草をいじっているとふいにウィンドウが開いた。
いや、パソコンが目の前にあった訳じゃないよ?
再確認だが、ここは原っぱだぜ?
そうではなくてだな、なんていうか、視界にウィンドウが現れたんだよ。そういうことだよ。
わからんか。
よく近未来的な映画で出てくる、機械の画面ではなく目の前に飛び出てくるスクリーン的な?
語彙力のなさに泣けてきたが、まぁ、良しとしようではないか。
とりあえず現れたウィンドウに手を伸ばしてみても触ることはできなかった。
驚きつつもそれををよく見てみると何かの名称が書かれていた。
アミノクサ
何の名前だろうか。響きだけなら草の名前そうだ。
しかし、左右に視界を回してみてもウィンドウは変わらない。
考えながら空に視線を動かすと、そのウィンドウは消えてしまった。
不思議に思い、元の位置に視線を戻すとまた表示された。
あ、そうか左右どこ見ても草だらけだから、揺らしても消えなかったのか。
ふむ、やはり思った通りこれは草の名前か。
しかし、急に出てきたこのウィンドウはなんなんだろうか。
あれか
ゲームで出てくる解説画面的な。
ゲームをしたことがない身からして詳しい説明はできないがとりあえずはそういうことだろうと、納得してみる。
「なるほど、ほほぅ、私は天才か」
納得してみた私はあることを閃いた。
「地面を見つめればここの地名が出るんじゃね?」
なんという閃き。
これは天才にしかできない発想だ。
これからは西宮 月と書いて天才と読もう。
自画自賛しながら地面に目を向ける。
意識を地面に向けて飛ばしてみるが、見えるウィンドウにはアミノクサ。
ならば、と草を引っこ抜いて地面をみればウィンドウには”アミノクサの根”
「アミノクサアミノクサしつこいんじゃぁぁぁぁぁ」
叫びながら素手で深くまで掘ってみる。
爪の間に土が入っても気にしない。だって生死がかかってるんだもん。
帰れないとかヤダヨ。ごはん抜きはつらい。屋根がないのはつらい。
地表から15㎝ほど掘ってみて穴の中に根がないことを確認する。
「…ふぅ」
深く息を吐き、吸う。
一度目を閉じ、決意を固めた。
もし知らない土地でも、もし地元とは遠いところでも、絶対帰る。
無意識に今活用しようとしている非現実的なウィンドウを無視して家に帰れると思い込んだ。
目を開け、意識を穴に向け流す
ハッとウィンドウを見れば
そこに書かれた文字は
”ミリタリア”という自分の持てる知識全てを駆使してもヒットする土地がないカタカナ名
しかし、私はすごく最近にこの名前を見た記憶があった。
そう、あの”人気№1”という売り文句に惹かれ買ってしまった、ここに来る直前まで目にしていた、あのオンラインゲーム
その設定画面で私は何を入力した?
なんだよ出会い系サイトかよと馬鹿にしていたあの設定で
最後の画面にあった質問に
私は何と回答した?
”国名:ミリタリア”
「……やっちまったぜ」