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ポチ太郎のわふわふ大冒険 前編

本日、特別巻のラストメモリーが発売になりました。あとがきの下の方に詳細あります。

記念の小話です!


 ポチ太郎は雑種の犬だ。

 だがただの普通の犬ではない。

 

 毛はピンクで瞳は琥珀色、手足も尻尾も短いもふっとした丸々ボディ。鳴き声は「わん」ではなく「わふ!」で、人語を解する。性別は♂。

 あとはほんのちょっと……ある少女に言わせるとちょっとどころではなくかなり達者に、魔法が使えてしまう。


 わりと万能な、ミラクルスーパードッグである。


「わふ、わふ!」


 そんなポチ太郎は現在、当たり前のように主人の元を脱走して、学校の敷地内をテレポートも駆使して好き放題歩き回っていた。

 主人がつけた魔力制御首輪などというものは、ポチ太郎にとっては子供のおもちゃに等しい。軽いパズル感覚で外せる。自分に甘々なご主人様を出し抜くなどという芸当は、彼には朝飯前だった。


 最近のポチ太郎のお気に入りのお遊びは、ずばり人間観察。

 人間に見つからないよう、学校という小さな箱庭をぽてぽて周遊し、彼等の日々の様子をわふわふこっそり眺める。ちょっとした発見やスリルが、大変マイブームなのである。


 放課後という生徒の自由な時間は、まさに格好の観察場だ。


「ちょっと! 部の予算会議用の資料の裏に、変な落書きしたのあんたでしょ、アキト!」


 歩くのに疲れたら飛んだらいいじゃないという精神で、浮遊魔法で人気のない中庭をふよふよ浮いていたポチ太郎は、すぐ傍の窓ガラス越しに甲高い声を拾った。


 ガラスの向こうは校舎の一階。渡り廊下だ。

 壁に丸っこい体を潜め、ひょっこり耳と顔を覗かせて、見つからないように様子を窺ってみる。


 廊下では、なにやら黄色い頭のチビッ子二人が、書類を片手に言い争いをしていた。

 知能も人間に劣らないポチ太郎の脳内人物メモによれば、確か生徒会のメンバーだ。アイドル並みに生徒たちから人気があって、お祭り双子と呼ばれている。それこそ子犬同士のように、彼等はきゃんきゃんと吠え合っていた。


「これはかなりの傑作なんだぜ。書類のチェックに飽きて適当に描いたやつだけど、わりとよく描けてるだろ? 題して、『怒るナツキ』」

「ブッ!」

「はあ!? そもそも大事な資料に落書きがダメだって言ってんの! 幼稚園児じゃあるまいし! てか会長もなに笑ってんの!?」

「ご、ごめっ、い、意外とそっくりで……っ!」

「これのどこが私なの!」


 よくよく見れば、チビッ子たちの少し後ろには、異様にキラキラした人間もいた。チビッ子♂の持つ資料の落書きとやらを見て、腹を抱えて笑っている。イケメンが台無しである。

 あのキラキラ人間はこの学校の生徒会長だ。


 チビッ子♀は可愛らしい顔で大きな瞳をつり上げ、「本当に生徒会男子どもはデリカシーの欠片もない!」と憤慨している。それでも「画家になれるよ、アキト」「だろー?」と盛り上がる、男子ズの空気の読めなさと騒がしさは留まるところを知らない。


 なにやらあのチビッ子♀は苦労しているのだな……と、ポチ太郎はやれやれといったふうに「わふぅ」と息をついた。


 責任感の強い人間とは大変そうだ。

 犬の身になれば、こんなに気楽なのに。


 この学校に囲われる前までは、とある研究所で実験動物としての日々を送っていたポチ太郎だが、過去のことは過去のこと。元よりお気楽な性分だ。自由気ままにお散歩のできるこの暮らしを、彼はとても気に入っていた。


「とにかく今すぐ消しなさい! このお馬鹿コンビ!」

「え、俺もかい?」

「ちぇ、こんなに上手く描けてるのによー」


 三人はまだ廊下の真ん中で立ち往生している。


 ポチ太郎の方は心行くまで観察が終わったので、窓ガラスに肉球の跡を残し、この場をあとにすることにした。


 あまり一か所に長居していると、そろそろ自分がいなくなったことに気付いたご主人様が、慌てて探しに来てしまう。見つかれば、やんわり怒られながら捕まえられることだろう。

 ご主人様のお叱りはまったく怖くないし、すりすりもふもふして謝ればあっさり許してもらえるため、ポチ太郎としてはそこはあまり問題ではないのだが、追われると逃げたくなるのが動物の本能だ。


 それに、自分と『同じ』少女の様子も、まだ見に行っていない。


 そこはメインに取っておいて、ポチ太郎は次はどこへ行こうか、のんびりとお日様の光の下で考える。今日はポカポカいい天気、冒険日和だ。

 己の犬小屋と化している化学準備室に、テレポートでいつでも戻れる範囲でなら、極たまにしか行かないところに立ち寄ってみるのもいいかもしれない。賢い頭で、『桜ノ宮高校人物ラインナップ』を思い浮かべる。そこから一人、この人間にしようかと選んでみた。


「わふ!」


 行き先を決めたポチ太郎は、機嫌よくぶんぶんと尻尾を振った。


 あそこに行けば、あの人間は自分のことを知っているし、見た目に反して意外と動物好きだ。己のことも歓迎してくれるだろう。


 難点は学校にいることが極端に少ないところだが、まあそこは当たってみなくてはわからない。彼女は校舎に隣接した寮の方には、寮監のおじいちゃんに会いにちょくちょく合間を縫って行く癖に、校内で見かけたらレアモンスターが出たみたない反応を生徒にされてしまう。


 だがそんなレア人物だからこそ、ポチ太郎も観察甲斐があるというものだ。


「わふわふー」


 そうと決まれば即行動。

 いかなるときもアクティブなポチ太郎は、テレポートという高難易度の魔法を意図も簡単に発動させて、彼女のテリトリーへと移動した。




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【お知らせ】
応援頂いたおかげで、2月22日に特別巻が出ます。 もしご興味ありましたら、活動報告を覗いて見てやってください。
本当にありがとうございます!

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