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夏色の記念写真(裏)

「お姉さま、お姉さま! 一つお願いがあるのですが!」


 寮監室を借りてのランキング入り記念パーティー。

 それを三日後に控えた私と心実、ついでに無理やり連れて来た樹虎は、放課後に梅太郎さんのところに押しかけて、パーティーの計画を立てていた。


 イメージが西洋のお姫様な心実に、畳みのスペースって似合わないなーと思っていたら、正座してちゃぶ台の前で真剣に計画表を作っていた心実が、ハッと思い出したように手を挙げた。


「どうしたの? 心実」

「あ、あのですね、唐突で申し訳ないのですが……今から一緒に、写真を撮って欲しいのです」

「写真?」


 同じく正座姿で私が小首を傾げれば、心実は「はい!」と元気よく返事をする。


「実はですね、私の心配性なお父さまから、先日連絡がありまして。学校生活はどうか、友達は出来たかと聞かれたので、素敵なお姉さまが出来ましたとお答えしたのですが……」

「え、ちょっと待って、心実。本当に『お姉さま』が出来たって報告したの?」

「はい。三葉お姉さまの素晴らしさについて、延々と語ったのです」


 娘に友人が出来たか尋ねたら、お姉さまが出来ましたって、どんな変化球な返答だ。

 それを語られたお父様の複雑な心境が、察するに余りあるんだけど!

  

「ま、まぁいいや。それで、どうしたの?」

「そうしましたら、お父さまが是非、その『お姉さま』のお顔を見てみたいと……」


 ああ、それで写真ね、と、ようやく私は合点がいった。

 頬を薔薇色に染め、もじもじ恥じらう心実は相変わらず美少女で可愛らしいが、そんなに意を決して頼むことでもない。

 

 『友達同士』で写真を撮ることなんて、至って普通の行為だろう。私単品の写真を送られるのは微妙なので、どうせなら心実と一緒に写って、仲の良さそうな姿を見せた方が、お父さんは安心するんじゃないかな。


 思い立ったら即行動ということで、私は少し痺れた足を伸ばし、スマホを取り出して立ち上がる。


「いいよ、今から撮ろう。私のスマホ、写真機能は結構性能が良いんだよ」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

「そうだ、せっかくだし皆で撮らない? 梅太郎さんにも入ってもらって、えーと……」


 私は、隅の壁に凭れて片膝を立て、我関せずを貫いている樹虎に視線をズラす。

 無理やり連れて来たせいで、黄金の瞳は鋭く尖り、顔つきには険がある。不良オーラ全開で、昔の私ならビビって近寄りもしなかっただろう。


 しかし、今の私に、不機嫌な樹虎なんて怖くもなんともない。

 「樹虎も一緒に撮ろうよ!」と、気安げに声を掛ける。


「……テメェは人を強引に引き摺ってきただけじゃ飽き足らず、そんなことにまで俺をつき合せるつもりか?」

「いいじゃん。ちょっとパシャッとするだけだからさ。何も無理やり笑って写る必要も無いよ?」

「そういう問題じゃねぇ」


 低く唸って顔を背けられてしまったが、これはあれだ。強引に押し切っていいやつだ。


 奥からお盆にお菓子を載せて、ゆっくりとした足取りで戻ってきた梅太郎さんに、私はスマホを片手に事情を説明する。

 梅太郎さんは柔和な顔を綻ばせ、「僕も写っていいの? 撮る側じゃなくて?」と聞いてきたが、そこは是非写ってくださいとお願いする。


 心実のお父さまに、私を紹介する用の写真を撮る予定だったが、私はむしろ、みんなで写った写真が欲しくなってきてしまったのだ。

 ……ここに来て、手に入れた大切な『日常』だ。

 思い出の一つに保存しておきたいと思っても、何ら悪いことは無いだろう。


「でも、そうすると撮ってくれる人がいないねぇ。どうしようか?」

「草下先生にでも頼みます?」


 改心してくれた先生なら、喜んで引き受けてくれるんじゃないかという考えだ。でも流石に、写真を撮ってもらうだけで呼び出すのは悪いかな。


「そのあたりは問題なしなのです、お姉さま! 私はまだ魔法使用許可を取ったままにしてあるので、浮遊魔法でカメラを良い位置で固定して、あとはタイミングに合わせて物質操作魔法でボタンを押せば、綺麗に撮れるかと思います!」

「す、凄いね、心実。自撮り棒いらずだね……」


 傍にやってきた心実が、胸を張って高度な魔法の使用法について解説してくる。複合魔法は本当に難しいので、相変わらずの天才魔法少女っぷりに舌を巻いてしまう。


 金色の髪をふわふわ揺らし、「褒めて、褒めて」と言外に訴えてくる心実に、私は賞賛の声を送りながらスマホを手渡した。


「場所は此処でいいのかい? あ、窓は光が邪魔しちゃうから、今閉めてくるよ」

「お姉さま、お隣に並んでも良いですか? あ、待ってください! ちょっと服装も治しますので……!」

「はい、樹虎はこっちね! 笑わなくていいから、とりあえずカメラ目線はキープで!」

「おい、引っ張んな! 写る気ねぇって言ってんだろ!」


 わちゃわちゃしながら、それとなく位置につき、カシャッと軽快な音が鳴る。

 すぐに樹虎には、組んでいた腕をバッと払われてしまったが、一発で撮影は成功したみたいだ。魔法で浮いていた私のスマホを心実から受け取り、画面を覗き込めば、やけに賑やかな光景がそこにはあった。


 ――――私も、心実も、梅太郎さんも笑っている。樹虎は相変わらず凶悪面だけど。

 あの頃はこんな、笑顔の写真がこの学校で撮れるだなんて思いもしなかった。


「ありがとうね、心実」

「? お礼を言うのは私ですよ、お姉さま。これで、お父さまに改めて、お姉さまを紹介できるのです!」

「……出来れば、『友達』としてお願いしたいかな。後で送っておくよ」


 お菓子を配る梅太郎さんの手伝いに走った心実を横目に、私はスマホを操作する。『送信が完了しました』の文字の後に、暫し悩んで、またポチポチと手を動かした。


 そして、『待ち受けに登録しました』の表記が浮かんだのを確認して。


 私も梅太郎さんの手伝いと、不機嫌ゲージがMAXになってしまった樹虎を宥めるために、皆の方へ足を進めるのだった。

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