リョウスケとボク
何かがボクに触れた。
それは何か温かく、ボクの意識はフワリと浮き上がるような感じがして、ふっと音と光が、回りの景色がボクを取り巻いた。
ボクはまた世界の中に居た。
(そういえば……)
ボクは辺りを見渡した。
あの温かく優しい物の正体が知りたかった。
ボクは隣に人の気配がして、チラリと見上げた。
見た感じでは年齢も職業もよく分からない男性だ。
何か書いているようだ。
「うぅん、こんな感じか?」
小さなノートを自身の目の高さに持ち上げて、リョウスケは唸っていた。
「確かこの電車、折り返しだったよな」
そう言ってリョウスケは、胸のポケットからスマホを取り出し、小さなノートを中指と薬指で器用に挟んで、右手ではペンを小指で握って人差し指はスマホの上を滑らせた。
「うん、間違いないな」
リョウスケはスマホをポケットにしまうと、今度はカバンの中をごそごそと探りだした。
「あれ?おっかしいな……入ってるはずなんだけど……」
リョウスケは呟きながら、カバンを大きく開けて中を覗きこんだ。
(よく、しゃべるな……)
ボクはリョウスケの独り言を聞いて、あの小さな傘を思い出した。
あの傘もよくしゃべっていたなと、ぼんやり思い出した。
(今、どこでどうしてるんだろう)
小さな傘は確か、何度も持ち主が変わったと言っていた。
もう何度も置き去りにされたとも言っていた。
ボクも、あの小さな傘のようになるのだろうか。
ボクはまた苦しくなった。
「よし、外れないでくれよ」
明るいリョウスケの声に、ボクは隣を見ると、リョウスケが両手に紙を持ってボクを見ていた。
リョウスケはボクの持ち手に、手に持っていた紙を貼り付けた。
ボクに触れたリョウスケの手は温かかった。
(さっきの温かい感じはリョウスケだったんだ)
ボクはボクを目覚めさせた温もりに、とても複雑な思いを抱いた。
「持ち主の元に戻ってくれると良いんだけどな」
そう言いながらリョウスケは立ち上がり、ボクの紙が貼り付けられた持ち手を、人差し指で弾いた。
駅に着くとリョウスケは、電車を降りた。