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傘旅  作者: m2lab
8/18

小さな傘とボク

 ヨシエが降りてから、しばらくボクの側には誰も座らなかった。

 車内も随分と空いてきていた。

 ユウコと乗った時と同じか、あの時より少ない位になっていた。

「待ってっ」

 ぼんやり外と車内を見ていたボクの耳に突然、大きな声が聞こえてきた。

 ボクは声の主を探ろうと辺りを見てみた。

 ちょうどボクの前の座席の前の、ボクとは反対側の手摺に、ボクと同じように引っ掛けられたままの傘が有った。

「うっそぉ……置いてかれたぁ」

 その傘はボクとは違い、手摺からぶら下がって揺れていた。

 カスミが言っていた、名前が書ける傘だ。

 ボクは、車内を見渡した。

 車内の他の傘は、その小さな傘をチラチラ様子を見ているようだった。

(どうしよっかな……声をかけた方が良いのかな)

 ボクは困ってしまって俯いた。

 同じ境遇のその傘が、ボクはとても気になった。

 ただ、ボクが声をかけたところで、ボクもその傘も今の境遇が変わるワケではない。

 その間にも、人々は入れ替わり立ち替わり、電車の乗り降りは続いた。

「ねぇねぇ、そこの赤い傘さん」

 ボクがノロノロ考えているところに、当の小さな傘が声をかけてきた。

 ボクはゆっくりその傘に目を向けた。

「アナタも僕と同じクチ?」

「まあ、そんなとこ」

 フレンドリーな明るい声の小さな傘に、ボクはちょっと無愛想に答えてしまった。

「たはあ、ゴメンっ。声かけちゃマズイ感じ?」

「いや、そんなことはっ」

「あぁ、良かったぁ。参っちゃうよねぇ」

「そうですね」

 ボクは小さな傘のハイテンポに上手くついていけず、緊張気味で硬い受け答えしか出来なかった。

(情けないな……)

 ボクは少し悲しくなった。

「ほぉんとさぁ。忘れるくらいなら持って出掛けなきゃいいのにさぁ…」

 口調は変わらないが、小さな傘の持ってる空気が変わったような気がした。

「何か、有りましたか?」

 ボクは思いきって聞いてみた。

「まあね。なんせもう数も思い出せないくらい置き忘れされちゃってるし」

 さらっと小さな傘が言った内容に、ボクは一瞬頭が真っ白になったような感覚に襲われた。

「ほら、僕って子供用の傘っしょ。忘れられるだけじゃなくて、間違えて持ってかれるしでさぁ」

 小さな傘の話は、ボクにただただ衝撃を与えた。

「今日もこの天気っしょ。何回間違われるんだろうなぁ」

 当たり前のように、小さな傘は話す。

 ボクはだんだん怖くなってきていた。

(帰りにはユウコに会えると思ってた)

「もうさぁ、最初の持ち主何て覚えて無いもん」

「えっ?」

 ボクは反射的に声を出していた。

「持ち主、覚えて無いんですか?」

 小さな傘はしばらく考えて、クスリと笑った。

「なあんとなくだけどさ。持ち主の方々のこと、覚えてるけどさ。どの人が一番最初の持ち主だったかは、もう分からないや」

「そう、なんですか」

 ボクと小さな傘が話してる内に、少し大きな駅に着いたらしく、人がたくさん乗り込んできた。

 人に隠れて、ボクから小さな傘が見えなくなった。

 ボクの隣には薄い板を操作する、背広を着た男性が座った。

(あの傘の隣にはどんな人が座ったんだろう)

 いくつかの駅を通り過ぎ、人の隙間からチラリと見えた小さな傘が有ったはずの手すりには、何も引っ掛かってはいなかった。

(そんなっ)

 ボクは突き付けられた現実に、ボクの回りから音が、光が全てが消え去った。

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