駅と電車とボク
駅に着くと改札をくぐり抜け、ユウコはホームに向かった。
(案外、人が少ないな)
ボクは朝の電車と言えば、ユウコが見てるテレビの様子や、以前並んでいた売り場を通りすぎる人達の話から、混雑してぎゅうぎゅう詰めのイメージを持っていたが、ユウコの乗る電車はそうではないのかもしれない。
ユウコが立ったホームには、数えるほどしか人が居ないが、向かい側のホームには、それなりに人が居て、床の丸い印の所に並んで電車を待っているようだ。
(そういえば、ユウコの仕事って何だろう?)
ユウコはスーツを着ていない。でも制服でもない。
今まで疑問にも思わなかったが、ユウコが仕事に行ってると何となく思っていたが、実は違うのかもしれない。
まあ、それも。
これからユウコが連れていってくれるのだから、そんなところに思考を巡らせるより、回りの様子や景色、今見える物に興味を持った方がきっと有意義に違いないとボクは思い、改めてのんびり回りを眺めた。
まもなく向かいのホームに電車が入ってきた。
電車の窓から人がたくさん乗っているのが見えた。
そこにホームに並んでいた人達が入って、更にぎゅうぎゅう詰めになったように見えた。
(あれが満員電車ってヤツかな)
ボクは目の前の満員電車らしいものに釘付けになった。
あんな四角い箱の中に、一体どのくらいの人が乗っているのだろう。
そしてそこにはきっと、ボクら傘も一緒に乗っているのだろう。
人も満員だが、傘も満員で。
もしかすると傘同士で会話してたりするのだろうか。
(久しぶり〜とか?)
ボクは近くの傘に声を掛ける自分を想像して呟いてみた。
なんだか面白い。
でもきっと、恥ずかしくて自分から声を掛けるなんて出来ないんだろうなと思った。
そうこうする内に、向かいのホームまた電車が入ってきた。
ところがその電車は停まらず通りすぎてしまった。
電車が通りすぎた後に、ものすごい風に煽られた。
閉じてるのにはためくようで、ボクは身を硬くした。
(あんな電車も有るんだ)
外の世界は知らないものだらけだ。
ボクは空を見上げた。
相変わらず重たそうな空だ。
だけど、あの空からは雨が降ってくるらしい。
(雨、ありがとう)
ボクは小さく、まだ見たこともない雨に感謝した。
今日雨の予報じゃなければ、ボクはまた留守番だった。
感謝してもしきれない。
そんなことを考えていると、今度はとうとう目の前に電車が停まった。
ユウコが歩きだした。
ボクは初めての電車に乗り込んだ。