ユウコとシアワセとボク
「ありがとう、タケル」
そう言ったユウコに、タケルはボクを差し出した。
「なんで忘れたんだよ。前にやっと気に入ったの見つけたって言ってたのにさ」
タケルは苦笑しながら言った。
ユウコは受け取ったボクの留め具の辺りをしっかりと持って、ちょうど持ち手がユウコの目の前に来るようにした。
そこにはボク
の貼り紙が有った。
「ゴメン」
ユウコが謝ると、ふっとタケルは笑ってと、ユウコの頭をくしゃりと撫でた。
「すげぇだろ、その紙」
タケルはユウコの隣に回って、ボクの貼り紙を覗き込んだ。
ユウコはじっと貼り紙を見つめていた。
一文字ずつ、丁寧にユウコは読んでるのか、ボクの貼り紙を指でなぞっていた。
「スゴいね」
ユウコがぽつりと呟いた。
ユウコの目がキラキラ濡れていた。
タケルが優しく微笑んで、ユウコの肩に手を掛けて、ぽんぽんと宥めるように叩いた。
「こんなこと、有るんだな」
タケルが静かに言うと、ユウコがこくりと頷いた。
「……良かった」
ユウコが掠れた声で言った。
(うん。ホントに良かった、ユウコにまた会えて)
ボクは、ユウコとタケルを見ながら思った。
そして今日一日で出会った、人、物に、ボクはユウコに会えたよと伝えたくなった。
そんなこと、出来るはずないけれど。
「なあ、コメント入れとけば?」
タケルがユウコに自分のスマホを見せながら言った。
「うん」
ユウコはボクを肘にかけると、ポケットに入れていたらしいスマホを取り出した。
サッと指を走らせ、ユウコは動きを止めた。
「どうした?」
「どう書けば良いかな……。ものすごくうれし過ぎて言葉に出来ないよ」
涙で濡れた目を細めて、ユウコがにっこり笑った。
ボクは思わず息を飲んだ。
(良かった、この笑顔を見れて)
ボクは温かい気持ちになった。
電車の中でも何度か温かい気持ちを感じたけれど、それとは比較にならない位に温かい気持ちになった。
(こういうの、シアワセって言うのかな?)
ボクは嬉しくて、温かくて、優しくて。
そんな素敵な気持ちでいっぱいになりながら、スマホとにらめっこしているユウコを眺めていた。
そして、そっと呟いた。
「もう、ボクを忘れないでね」
ー完ー
梅雨が開ける前に完了出来て一安心です。たまに見かける鉄道会社の忘れもの市でも傘の販売は結構多いようです。書きながら、私も傘を、それ以外の物も忘れないようにしなきゃなと思ったりしていました。