旅の終わり
タケルはスマホをポケットから取り出すと耳にあてた。
「ホントに有ったよ、今持ってる。良かったな」
電話の向こうの相手にタケルは優しい笑みを浮かべて言った。
「とりあえず店まで行くから。じゃ、後で」
それだけ言うと、タケルは通話を終えて、スマホをポケットにしまった。
ボクはタケルをじっと見た。
(ユウコに、もうすぐ会える?)
期待と不安で何かが爆発しそうだった。
「やぁれやれ」
からかうようなスマホの声が聞こえた。
「ホントにすぐですってば、貴方のご主人の勤め先。もう見えてると思いますよ」
「えっ?」
ボクは辺りを見回した。
「見えませんか、パソコン教室って書いてるでしょ?」
ボクは小さく溜め息をついた。
「すみません、ボク、字は読めないです」
ボクはすぐそこなのだろう、ユウコの店が分からず、悔しくなった。
(字、読めるようになりたいな)
なんとなくボクは苦しくなった。
「あぁ、申し訳ない。しかし何とも特徴を説明し難い店構えなんですよ」
全く申し訳ないなんて思ってないような口調で、スマホが言った。
もうボクは、スマホと話すのを止めて、タケルに連れられて行こうと決めた。
タケルはしばらくすると、閉まった扉の前で止まった。
タケルはまたスマホを取り出すと、片手で簡単に何らかの操作をして耳にあてた。
「ついたぞ」
タケルが扉を見ながら言った。
「おう」
タケルはスマホをまたポケットにしまうと、そのポケットからボクの貼り紙を取り出した。
ボクの貼り紙を見て、タケルがフッと小さく笑った。
「貼っとくか」
そう言ってタケルは、ボクの持ち手にボクの貼り紙を返してくれた。
ボクは貼り紙を貼り直されて、何だか安心した。
いつの間にか、この貼り紙もボクにはボクの一部になっていたのかもしれない。
そのときガラッと扉が開いて、ユウコが出てきた。