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傘旅  作者: m2lab
16/18

タケルとスマホとボク

 ボクはタケルに連れられて電車を降りた。

 タケルは電車を降りると、ボクの貼り紙を剥がしてしまった。

「さすがに持つには邪魔だしな」

 言いながら、タケルはボクを手首にかけ、ボクの貼り紙を丁寧に小さく畳んで、スマホが入っているポケットに入れた。

(ボクはどうなるんだろう)

 ボクは怖くて仕方がなかった。

 小さな傘は、こうして最初の持ち主とは違う誰かに連れていかれたのだろうか。

 大切な貼り紙も無くなってしまった。

 ボクはリョウスケが書いてくれたあの貼り紙が、まるでボクの全てみたい思っていたのかもしれない。

 ユウコ以外の人に連れ出された不安に、貼り紙が無くなった不安が上乗せされ、ボクは途方もない不安の渦に呑み込まれるのではないかと思った。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですってば」

 電車の中で聞いた、ゆっくりした声が再び聞こえてきた。

 どうやら声の主はタケルの持ち物のようだ。

「誰?」

 ボクは思いきって声をかけてみた。

「私はタケルのスマホですよ」

 その声に、ボクはボクの貼り紙が入ったポケットを見上げた。

「私の主人が私を使って貴方を見つけたんですよ」

 ボクは頭の中に?がたくさん浮かんでいた。

 タケルのスマホが言ってる事がまるで分からなかったからだ。

「貴方、今、有名傘なんですよ」

 スマホの声がゆったり楽しそうに言った。

 だけどボクは状況が分からず、ちっとも楽しくなかった。

「どういう意味ですか」

 ボクは少し刺々しい物言いで尋ねた。

「貴方、気付かなかったんですね。自身の写真を撮られたことに」

「えっ?」

 ボクはスマホの言葉が瞬時に理解出来なかった。

(写真を撮られた?)

 ボクにはそんな記憶は無かった。

「貴方の全体の写真と、持ち手に貼られた紙のアップの写真。インターネットで随分話題になってるんですよ」

 ボクの不安はいつしか、頭の大量の?に押され、すっかり小さくなっていた。

「最近はほら、不特定多数の人に発信するツールが発展してるから」

 ほらとか、からと言われても、ボクにはスマホの言ってる世界の事はまるで分からなかった。

「すみませんが、ボクにはあなたの言ってる事が全然分からないです」

 ボクは少し苛立ちながら言った。

「そうだよね。傘じゃデジタルの世界は分からないよね」

 ボクはかなりイライラしてきていた。

「要はね、私の主人が貴方を、貴方の主人のところに連れてっているんですよ」

 ボクは一瞬固まってしまった。

(今、なんて……)

「私の主人、貴方の主人と親しいんですよ。貴方の主人の持ち物とはいくつかお会いしてますが、貴方に会うのは初めてですね」

 スマホが饒舌に話していたが、ボクの頭には入ってこなかった。

(このスマホ、なんて言った?)

 ボクの頭は状況に付いていけてなかった。

「以前の傘は運が悪かったですよね、なんせ……。あの、赤い傘さん?おーいっ」

 ゆったりした声が大声でボクに声をかけてきた。

「あ、……はい」

 ボクはなんとか返事をした。

 スマホが笑いだした。

「貴方、聞いてなかったようですね。まあ良いですよ、そろそろ着きますし」




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