夜とボク
セイカとスマホと分かれてから、また電車は折り返した。
もう何度折り返したのだろう。
ユウコと乗った時と、今は反対方向に電車は進んでいた。
最初にリョウスケが貼ってくれた紙には、もうどのくらいの人が書き足したか分からないほどのメッセージが書かれていた。
ホノカとショウタのように、剥がれないように、しっかりと貼り直してくれた人も居た。
セイカはバンソーコーだったが、何かのシールを貼ってくれた人達も居た。
話し掛けてくれたり、ボクから話し掛けたら答えてくれた物達も居た。
ボクは温かい気持ちをたくさんもらっていた。
きっと貼り紙の成果なのだろう。
ボクは連れていかれることなく、ずっと手摺に引っ掛かったまま、電車の中に居た。
(小さな傘はどうしているんだろう)
ボクは、ボクよりも遥かに旅を続けてるだろう傘のことを考えた。
窓の外はすっかり日が落ち、車内が窓越しに常にくっきり見えるようになっていた。
電車に乗る人が段々と増えてきていた。
(ユウコにもうすぐ会えるかもしれない)
ボクはつい期待してしまった。
ボクが乗っている電車だけが走っているわけじゃない。
仮にユウコがこの電車に乗ったとしても、同じ車両の同じ扉から乗るとは限らない。
きっとあの小さな傘のように、このままユウコに会えない可能性の方が高いのだろうことも、ちゃんと分かってはいた。
それでも、リョウスケが書き、どんどん書き足されたメッセージに、ボクは多大な期待をしていた。
ボクは景色の中の灯りと、車内と灯りとが映る窓の外を、色んな想いと思い出に浸りながら眺めていた。
だからボクは、ボクとボクの貼り紙を一人の学生がスマホの写真で撮っていたことに気付かなかった。
その学生は、自身が利用しているネットワークツールの全てを駆使して、ボクの写真と貼り紙と乗っている路線と車両を拡散していたのだった。