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傘旅  作者: m2lab
13/18

セイカとスマホとボク

 ショウタとホノカが電車を降りて、また色んな人がボクの貼り紙を見ては去って行った。

 電車は折り返し、また反対方向に走り出した。

 しばらく行った駅で、女学生のセイカがボクの横に座った。

 セイカはボクをちらりと見て、まるで興味がないといった様子で、ポケットからスマホを取り出すと、何やら指を走らせ操作しだした。

 誰も彼もがボクに興味を持ってくれるわけではない。

 だからボクに興味をもたないセイカに、ボクが何となく不満を持っているのはおかしなことだと、知識としては理解出来ても、気持ちとしては少し難しかった。

 それは、ボクに出会ったみんなが、ボクを大事にしてくれたことに、ボクが当たり前だと感じていた証なのだろう。

 茶色い鞄に教えられ、ショウタとホノカのおかげで知ることが出来た、通りすがりの温かい心に慣れてしまったボクには、セイカのような気にされない今の状況は、不満と共に淋しくもあった。

(何をしているのかな)

 ボクは淋しさを紛らわす為にセイカを見ていたのだが、セイカは座ってスマホを見てからずっと、眉間にシワを寄せていたのだ。

 スマホの操作は世話しなく指を動かすものではないので、きっと何かをしている訳ではないのだろう。

 よく似た位置をちょっと触っては軽く上に指を弾いている。

 その間も、ずっとセイカは眉間にシワを寄せ、口をきゅっと結び、スマホを見ていた。

(何かを見てるのかな)

 ボクはじっとスマホを見つめた。

「あぁのさ。そうもじっと見られっと、さすがに緊張すんだけど」

 突然軽い口調の声が聞こえた。

「ご、ごめんなさいっ。ちょっと気になってしまって」

 ボクは慌てて謝った。

「セイカの見てるもの、気になる感じ?」

 話しかけかけてきたのは、セイカの手の中からスマホだった。

「あ……はい。かなり」

 ボクは正直に答えた。

 ボクの返事にスマホはケタケタ笑いだした。

「素直な奴、キライじゃないぜ」

 スマホがさらっと言った。

 ボクは黙って続きの言葉を待った。

「セイカは学校の交流するツール見てんの。結構ハードな感じのさ」

 スマホは声のトーンを落として言った。

 ボクは重い口調に変わったスマホに、戸惑いつつも、黙ることで先を促した。

「今さ、セイカの友達の事が上がっててさ」

(友達?)

 スマホは淡々と話続けた。

「セイカはさ、その友達、助けたいらしいんだ」

 ボクはちらりとセイカを見た。

 相変わらずセイカは難しい顔でスマホを眺めていた。

(……らしい、か)

 そう表現するスマホの気持ちを、ボクは無性に知りたかった。

 ボクは再びスマホに視線を戻した。

「俺はさ、セイカが色々調べるから、きっとお前より人間社会ってヤツに詳しい」

 そこでスマホは言葉を切った。

 ボクは言うべき言葉が見つからず、黙っていることしか出来なかった。

「お前が俺より世の中知らないってことで話すけど」

 そう前置きしてスマホが話したのは、人は動物や物だけでなく、人を簡単に傷付け、殺せる生き物だと言うこと。関係ない者が、傷付こうが、殺されようが無関心な生き物と言うこと。

 だけどセイカは違う。友達を助けようと、毎日苦しんでいると言うことだった。

 それも事実なのだろうと、ボクは思った。

(でも、なんか、……なんだろう)

 ボクはモヤモヤしながら、ユウコと分かれてから出会ったみんなを思い出した。

「キミは、何を望んでいるの?」

 ボクは何となく、そう問い掛けていた。

「えっ?俺の……望み?」

 スマホはしばらく黙った後、ケタケタと笑いだした。

「お前、変なこと言うのな。俺ら物が望んで何になるってんだよ」

 怒りのような何かをぶつけるような、或いはどこかに何かを投げ遣るような、そんな口調でスマホは言った。

 ボクには何となく、その口調に強烈な悲しみを感じていた。

 想いは必ずしも届かない。

 ましてやボクたち『物』の想いなんて、人に届くことが有るのかなんて、ボクには分からなかった。

 でも、人でも物でも想いがずっと届かないなんてことは無いと、ボクは思いたかった。

 実際ボクもそうだった。

 リョウスケや出会った人達の想いを知らなかった時は、ただ迷惑がっていた。

 茶色い鞄やショウタとホノカに出会っていなければ、今頃まだリョウスケ達を恨んで、殺伐としていたのかもしれない。

 でも、もうボクは違う。

 人の温かい心も知っている。

 今何も伝わらなくても、いつか届くことが有るかもしれない。

「キミはセイカの幸せを望まないの?」

 ボクはそっと呟くように訊ねた。

「なぁ、俺ら物はさ。選んでもらった時点からその人の幸せしか願わねぇんじゃね?」

 スマホは溜め息をつくように言った。

(そうだよね、良かった)

 ボクはほっとした。

 到着駅の案内のアナウンスにセイカが顔を上げた。

 スマホはセイカの鞄に帰っていった。

 立ち上がりかけて、セイカはポケットから小さなケースを出して、中からバンソーコーを取り出した。

 バンソーコーはカラフルものらしかった。

 セイカはそのバンソーコーをボクと紙の境目にしっかりと貼って、今度こそ立ち上がり、開いた扉から静かに電車を降りた。

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