ホノカとショウタとボク
茶色い鞄が降りた3つ先の駅で、ボクの隣にホノカとショウタが2人で並んで座った。
ボクの隣にショウタ、その向こうにホノカという順だ。
「ショウくん、とび箱出来て良いなぁ」
無邪気に笑いながら言うホノカに、ショウタ照れたように微笑んだ。
「ホノカちゃんもガンバってたよね」
ショウタの言葉に、ホノカは少し眉を寄せ困ったような顔をした。
「うーん……がんばったのかなぁ私」
ショウタは目をぱちくりさせ、尋ねるように首を傾げた。
「だってホノカ一番低いのもとべなかったよ?」
ホノカが言うと、ショウタはにっこり笑った。
「ガンバるのととべるのは違うと思うよ、僕は」
ショウタは何かを思い出すように、視線を上に向けた。
「ホノカちゃん、いっしょうけんめいに見えたもん」
ショウタが明るく言うと、ホノカは恥ずかしそうに自分の両頬に手を添えた。
「そっか」
「うんっ」
ショウタとホノカが互いに顔を向けて微笑んだ時、ホノカが目を丸くしてショウタの方に身を乗り出した。
「ホノカちゃん?」
ショウタが驚いて声を上げた。
「ショウくん、あのカサ、紙がはってるよ」
ホノカの言葉に、ショウタもボクを見た。
ショウタはボクを持ってくるりと反転させて、ボクに貼り付いている紙を見た。
ホノカがショウタの肩を持って、更にボクに顔を近付けた。
「読めないカンジがあるよ」
ホノカが困ったようにショウタを見上げて言った。
「読もうか?」
ショウタがホノカに聞いた。
ホノカが目を大きく見開いて、大きく頷いた。
「読んで読んで。ショウくん、スゴいね」
そういうとホノカは、シートにきちんと座り直した。
ショウタはくすぐったそうに微笑んで、ボクを更に顔に近付けた。
「この傘を回収しないで下さい。持ち主の手に戻りますように」
「今のは、この大きな字?」
ホノカが貼り紙の真ん中辺りを指差した。
「うん、そうだよ。こっちの小さいのは『持ち主以外持って行くの禁止』で、ここの横書きのは『貼り紙はがすな』だね」
ショウタが読んで行く言葉に、ボクは驚いていた。
あまり触られたくないなとか、じろじろ見られてイヤだなと思っていた自分がイヤになった。
ボクが、あの小さな傘のように持っていかれなかったのは、リョウスケが貼ったこの紙が有ったからだ。
ホノカが突然カバンから鉛筆を取り出した。
「私もかくっ」
そう言って手を伸ばしたホノカの手を、ショウタが止めた。
「ホノカちゃん、エンピツじゃ消えちゃうよ。待って、ペン出すから」
「そっか、そうだね」
ホノカが鉛筆を片付け、ショウタがペンを取り出した。
「何を書くの?」
ショウタが聞くと、ホノカがにっこりと笑って答えた。
「ラクガキ禁止」
「いいね」
ホノカとショウタがクスクス笑いながら、ボクの大事な貼り紙に書き足した。
(ユウコ、きっと会えるよ)
ボクは窓の外に向かって、強く念じるように思った。