時間とボク
しばらくすると、電車が停まった駅で人々が降りた後、車内を見回る鉄道会社の人がやって来た。
ボクに気付き近寄って来たが、しばらくボクを見た後、何事も無かったように次の車両に向かった。
この駅でしばらく電車が停まり、また人が乗った後、電車はさっきまで走っていた方に向かって進んだ。
(ユウコは今、何してるんだろう)
電車に乗ってる人達は、ほぼ皆傘を持っていた。
車窓を叩いている雨が、小さな粒から大きな粒に変わっていた。
風は余り強くはないようだ。
ボクはぼんやり外を眺めていた。
電車がすれ違うとき、ボクが乗っている車内が映った。
何人かの人がボクを見ていることに気付いた。
リョウスケが貼った紙を見ているのだろう。
(なんか、目立ってる?)
傘達にも見られてるようだ。
車窓越しに見えるボクの姿は、なんとも変わった……よく言えばユニークな姿だった。
(リョウスケってば、何をしてくれたんだか)
ボクは少し恨めしげに、随分前の駅で別れたリョウスケの姿を思い出した。
短い時間だったけど、何となく楽しげな人だった。
だが、続けざまにボクは、あの小さい傘のことも思い出してしまった。
(誰か、大切にしてくれる人に出会ってると良いな……)
ボクは物悲しくなって、見えるものから意識を切り離した。
電車は走り続けた。
見ることは止めたが、ボクは完全に世界を閉ざせなかった。
音だけは聞いていた。
アナウンスが、ユウコが降りた駅に着くと告げた。
ボクはユウコが乗ってくるかもしれないと、つい見ないことを止めて、開く扉を見つめ、乗ってくるかもしれないユウコを見逃さないように集中した。
しかし、ユウコは乗って来なかった。
電車は無情にも、ユウコが降りた駅を出発してしまった。
(ユウコは仕事なのかも……)
ボクはふと思った。
仕事をしている人は、朝出掛けたら夜まで家に帰らない。
ならば、ユウコがまた電車に乗るのはずっとずっと先になるのではないだろうか。
ボクは何となく力が抜けてしまった。
(仕方ない、夜になるまで待つしかないな)
ボクはリョウスケに触れた温かさのせいか、諦めるのを諦めた。