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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そっくりさん

久しぶりの投稿で、緊張しています。よろしくお願いします。


 序


 最近、俺に関する噂が頻発している。

 出始めた一年前は、数も数えるていどしかなく、たいして気にも留めるまでもなかった。どうせ人違いなんだろう、と。だが、二周目の干支を迎えたその年から、もうひとりの“俺”が活発的に動きだしたらしい。

 その噂というのが。

 同窓会に参加していた“俺”。

 合コンにて美女をお持ち帰りした“俺”。

 注文したDVDを受取に来た“俺”。

 オマケ付きお菓子を大人買いした“俺”。

 仲間を引き連れてキャバクラに入った“俺”。

 年上の女とデートをしていた“俺”。

 年下の女ともデートしていた“俺”。

 パチンコで大当たりを決めていた“俺”。

 同い年の女とホテルに入り込む“俺”。

 高級車を乗り回していた“俺”。

 極めつけは。

 地下アイドルのライブでオタ芸を披露していた“俺”。


 おいおいおいおい!

 いくつか心当たりがあるかもしれないが、こりゃあ、あんまりにも精力的に活動をしていないかい?

 だいいち職業上、女に縁が皆無と断言してもいい環境なんだよ、俺。

 まあ、世界にじぶんと似た人間は三人居る、と、聞きますが。ちょっとこの場合は“やけに近い”んだよ。しかもね、俺に“もうひとりの俺”が、だんだんと近づいてきていると云ってもいい。


 そして。

 いつものように造船所で鉄板を切断溶接を終えてバスに揺られて帰宅をした、そのとき。

「ただいま」

「あら、お帰り。あんたさっき帰ってきて、ひとっ風呂を浴びたんじゃ?」

「え。いつ」

「一時間くらい前に帰ってきたからね、今日は早かったねえって声をかけたけれども、なんだか“みょうに”沈んだ感じでさ、あんたは『今から風呂沸かして入るから、お粥を作ってて』って云うもんだからね、あたし、てっきりあんたが風邪引いているんじゃないかと」

「で、で。ひと足に帰ってきた俺はお粥を食べたの?」

「うん。終わったあとに二階の部屋に向かっていったよ」

「うっそお!?」

 母ちゃん、いくら冗談でも、ちょっと怖いよ。

「嘘じゃないよ」

「ちち、ちょっと行って確かめる」

「どこに行くって?」

「俺の部屋にだよ」




 破


 急いで自身の部屋を開けてみた。

 が。

 誰もいない。

 安堵して胸をなで下ろしてからは、いつものように家族と晩ご飯を囲って、風呂に入って、寝た。

 それから一週間ほど経ち。

 その日は休みで、街中を歩いていた俺に、高校生のときのクラスメートだった立花峰子が「久しぶり」と声をかけてきた。俺は一瞬、この女の変わりっぷりに見とれてしまう。

「えっ……と、立花……さん?」

「ありゃ」

「『ありゃ』って、なんだよ」

「それがね―――」

 シャッターの降りている店の前に場所を変えて、俺は立花峰子からの話しを聞いてみた。

 保険屋の営業でいろいろなところを回っていたルートの途中で、ちょうどこの商店街を通っていたときに、目の前から懐かしい顔の男が歩いてきたので、先ほどと同じように「久しぶり」と声をかけた途端に、その男も「久しぶり」と返したその人物が“もうひとりの俺”だったらしく。直後に「峰子だろ。お前、いい女になったよなあ。今ひまなら、そこらへんの喫茶店で一緒に付き合ってくれる」とそうナンパをしてきたところを、たった今適当に断って流してきたそうだ。

「だよねー。真中くんってそんなに軽いひとじゃなかったもんね。良かった」

 話し終えた立花峰子は、安堵した顔を見せる。まあ、俺は軽くもないが、たいして重くもないよ。こうしてひと通り話した立花峰子は詰まっていたものを吐き出したせいか、実に爽やかな顔をしながら、じぶんの仕事に舞い戻っていった。


 その三日後。

 夕方の仕事帰り。

 中学校の同級生だった、佐渡春男から出会い頭に「よお真中。昨日のお店は、良かったなあ。機会があったら飲みに行こうな」と。いやあ、それはそれでありがたいけれども、昨日の俺は“俺じゃない”んだよ。と、返したところ、佐渡春男はたいして顔色を悪くすることもなく軽く頭を傾げるなりに、「そっか。まあ、いいや。なんか暇ができたら一緒に飲もうな」と返ってきた。

 なんだか、以前よりもかなり、“もうひとりの俺”が俺に近づいてきているみたいだ。


 それから四日が過ぎて。

 その日は休み。

 俺の部屋に入ってきた妹が、目を輝かせながら。

「兄ちゃん兄ちゃん。いつからモテるようになったんだよ!! 美女を連れて歩いているとこを見たよ! 凄いじゃん凄いじゃん!!」

「はあ!? いつ。いつだよそれ」

「昨日だよ。商店街で、背の高い美女と一緒に御デートしてたじゃないさ。あのひと、誰? モデルさん」

「知らねえよ。初耳だよ。それが事実だったら、俺は今ごろバラ色だよ」

 今の生活も充分にバラ色だけれどな。

「えー、あれは確かに兄ちゃんだったけれどな。似たひとじゃなく、そっくりどころか、もう“兄ちゃんそのもの”だったんだよ!!」

 これは当分、妹の興奮は治まらないようだ。

「まあ、お前の云っていることも間違いはないかもしれないけれどさ、とにかく、俺は俺だから。毎日毎日造船所から帰って来て、休みといったらほとんど引きこもりなのが俺。だから、有り得ないんだよなあ〜」

「断言しているかと思えば……」

「なに含み笑いしているんだよ」




 急


 そうして、さらに二日が経ち。

 俺はいつものように造船所から戻ってバスから降りて商店街を通過していたときのこと、目の前を歩く、男女を見た。彼氏と手を繋いで寄り添って歩いている女は、背が高くてスレンダーだった。だったが。その隣りにいる彼氏が問題だったんだ。後ろ姿からも分かる、中肉中背よりも若干の細身をしたその男の手首から肘にかけて、俺が二年ほどくらい前に、仕事場で浴びた火の粉によってできた火傷の痕があった。

 間違いなくあれは、ミミズ腫れのような、猫に“かすられた”かのような、三つか四つほど斜めに走る線があり、この俺にある火傷の痕と完全に一致する。寸分違わずに一致。


 まさか、あれが“もうひとりの俺”なのか。

 いや。

 “もうひとりの俺”だ。


 そう確信をしたとき。

 こっちに向かってきた佐渡春男が、“もうひとりの俺”へと話しかけていく。すると、その後ろの俺に気づいたせいか、佐渡春男の顔はたちまち青ざめていき、まるで餌を求める池の鯉のごとく何度も口をパクパクとさせて、俺を指差していった。すると、その指摘に気づいたのか、振り向いていく。

 徐々に首を回していくその姿に、俺の心臓は今までにないほどに鼓動を高鳴らせていった。

 そして、完全に振り向いたそのとき。

 俺は後に退けない確信を持った。

「“お前”は、俺なのか!!」

「“俺”は、お前だ」

 いいや。

「いいや、違う。“お前”は、俺じゃない!!」

「いいや。“俺”はお前だよ」

「そうか。なら、お前は本当に俺なのか?」

「お前は俺だ……。いや、俺はお前か。……いやいや、お前は俺で俺はお前で……、俺は俺は―――」

 来た!と思ったね。

 俺が放った次の問いかけで決定した。

「お前は“誰”だ?」

「俺はお前で俺はお前で俺は俺で俺はお前で……俺おれオレおレおレおレオオオ……オれHa、オマエたチよリとおいTokoroカラキたモノDa」

 たちまち、“もうひとりの俺”はよりいっそう細くなり、指は伸びて爪は鋭くなって、背骨は節々が目立つほどに隆起して、瞳はつり上がってアーモンド形に変わり、実に“きっつい顔立ち”となった。

 いや、お前は本当に誰だよ?

 地球に何しに来たの?

 俺を含めた周りの人たちが呆気に取られていたときに、隙を突かれてしまったのか、“もうひとりの俺だった者”は、全力で足のバネを使って飛びかかってきた。それは、俺を狙って。

 刹那のことだった。

 横から飛んできた物体に、躰を突き刺された“もうひとりの俺だった者”は、俺の目の前を勢いよく横切っていき、建設中のマンションにへと激突したと思ったら、眩い光りを放って爆発をした。

 なんだなんだ何事だと俺も周りもざわついていく中で、片膝を突いた男が肩に担いだゴルフバッグを下ろしていくのを見た。そして、今までどこに潜んでいたのか、次々と軍服姿の人びとが現れてきて、爆破現場を取り囲んでいき、中の状況を確認。隊長とおぼしき男に伝えると、その軍服姿の一団を代表して、その男は皆に向かって声を張り上げていく。

「私たちは、地球防衛軍の者です!! 商店街の皆さま、近年、凶悪化している外来種の宇宙人の撃退に御協力をしていただき、感謝します!」

 と、敬礼ののち。

「尚、これは怪しいまたはこれは危ないなと思われた、外来種の宇宙人や地球外生命体の目撃情報は、この私たち地球防衛軍までお伝えください!―――では!!」

 そう述べると、俺たちに背中を向けて颯爽と商店街を去っていった。


 ありがとう、地球防衛軍!!

 君たちの活躍は忘れないよ!!

 そして、これからもよろしくお願いします!!




 『そっくりさん』完結!!





まさか、地球をも巻き込んだ、宇宙規模の事件に発展していたとはな!!


というわけで、最後までこのような書き物をお読みしていただき、ありがとうございました。

また、出来次第に投稿しますので、よろしくお願いします。

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