さぁ、はじめようか!
「やぁ、遅かったじゃないか」
「済まない、教授が少しばかり熱くなってしまってね」
二人の男が周囲の強い視線を受けながら
静かに席についた。
人々はまるで目の前のことが信じられないというように
口をだらしなく開いたまま固まっている。
――無理もない。
彼らは驚くべきことに、最近世間を騒がしている
俳優達ですら一線を画すほど
ひと目でわかる魅力的な佇まいをしていた。
あぁ例の奴か、と遅れてきた友人に
チャーミングな笑みを浮かべている彼、
名前はリュウ。
イエローのバーバリーシャツは嫌味のない上品なデザインで
クリーム色のチノパンとマッチしていた。
腕には最新作のハミルトンを巻いており、
机にそっと添えられた左手は
時計雑誌のグラビアのように見える。
靴はよく手入れされた茶色のカンガルー革で
彼の内面的な柔らかいオーラを優しくひきたてていた。
しかし外面的な彼の魅力はむしろ
他を圧倒するような鋭さにあった。
メリハリの効いたシャツの折り目、意志の強さを持った
切れ長の目、すっきりとした首筋、
髪には上流階級の持つあの独特なカールがかかっている。
そして彼の最も評価できる点は手と手首の美しさにあった。
あの手を持ってハンカチでも手渡されるものなら
どのような女性もたちまち恋に落ちてしまうに違いない。
「奴はすぐに熱くなる。いい意味でも悪い意味でも」
「そう。そして僕はそういう人物がきらいじゃない」
「いい意味で、か?」
ははっ。たまらなく愉快そうに笑い
もうひとりの男、ハルキは優雅に脚を組んだ。
まるでここには脚を組みに来たんだといわんばかりに
その姿はよく映えた。
清潔でゆったりとしたJAZZが流れる店内に
彼ほどマッチしている客はいない。
人が彼を見て感じるのは
真っ白な壁に落ち着いた絵画を掛けたときの
あの心地よさだ。
もう一方の男ほど溌剌とした魅力はないが、
人目を引くのはむしろ彼の方だった。
切り揃えられた黒髪は彼の動きに合わせさらされと揺れ、
優しい目元を息詰まるほど魅力的にさせる。
青緑の綺麗なシャツに黒のベストを重ね、
暗灰色のパンツにシンプルなベルトをしている。
そのどれもが彼の体型と相性がよく、
お互いの魅力を高め合っているように見える。
周りを引き立てることでいっそう
自分が引き立てられる、そういう人種だ。
そして彼の最大の美点は相手に安心と幸福をもたらす
無邪気な笑顔にあった。
通りがかった新米の女店員を優しく制するように手を挙げ、
ハルキは二人分のコーヒーを注文する。
店員がしばらく彼らに見とれてしまったため、
彼は3度も同じ注文をした。
「す、すみません!!」
「いいよ。気にしないで」
店員が恥ずかしそうに小走りに注文を伝えにいく姿を
ハルキは広場で妹がこけないよう見守る兄のように
優しく見送った。
「ハルキ、そんな世界を悟ったような目をしてどうしたんだ?
店員にコーヒーと連呼する性癖にでも目覚めたのか?」
「あぁ、君も一度やってみるといいよ、リュウ。
今に僕のことを笑っていられなくなるから」
そう言ってハルキは入店からじっと見つめてくる
周囲の客に優しく微笑みかけ、
机に両腕を組んで立て、その上にシャープな顎を
乗せた。
「それよりも、さっきの話だけど」
「さっき?いつの話だ」
「僕が嫌いじゃないものの話だよ」
「あぁ、あの良い悪いの話か」
ハルキはふと真剣な目をする。
秋の気持ちの良い太陽の前を
薄い雲が一瞬通り過ぎるように会話が途切れる。
少しでも正確に伝えようとするための誠実な沈黙が
場を整えていく。
そしてハルキはおもむろに口を開いた。
「僕はね、歴史的に見ても、人が
熱くなることにこそ萌えの源流があると思うんだ」
――店内には静かにJAZZの音が響いている。
技巧的になりすぎないよう自分を抑える若手ピアニストを
軽快でありながら深みのあるベーシストが支えている。
どこかの席で気持ち良くワイングラスが重なり
女性は皆お気に入りのドレスを着て華やいでいる。
人々が過ごす幸せな時間を称えるように
店員は微笑み、艶やかに磨かれた床やテーブルは
オレンジ色の光を温かく照り返している。
先ほどの新米店員がコーヒーを運んでくる。
今度は先ほどのように取り乱した様子はなく、
店員としての自然な風格を保っている。
「ありがとう」
感謝の言葉に店員はほんのり頬を赤らめ、
目礼をした後、静かに去っていった。
花の香を嗅ぐように熱いコーヒーの湯気に顔を近づけ
一口だけ啜ったあと、リュウはハルキに先を促した。
「さぁ、君の萌える話を聞こうじゃないか」
はじめまして!ワイナっプルといいます。
唐突ですが、あなたは萌えたことがありますか?
そしてそれを他人に話したことがありますか?
人に自分の趣味を語るとき、躊躇したことがありませんか?
彼らはただただ素直です。そして素直な人の周りには
素直な人が集まってくるんだよ、と。
好きなことを話す時がいちばんイキイキするもんだよ、と。
…そんな深い意味はありません。笑
ただただ、オタクとは程遠い人々が
萌え萌え言い合うっておもろいんちゃうのん??っといった
悪乗りです。
どうかお付き合いくださいませ。そしてコメントをくださいませ~