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異質なカケラ  作者: 白夜
4/6

4話 環境を確認したいと思います

 街を救えばきっと、帰れる。

 その可能性に望みを託してテレポートの魔法を使おうとしたルクレチアだが。

 昨夜着替えることもなく寝てしまった自分の格好を見て慌てて身なりを整える。

 残念なことに≪ホーム≫には浴室がない。

 ゲーム内で入浴する必要性がなかったせいなのだが。

 キッチンの水道は使えたので適当な布地を切りタオル代わりに身体を拭く。


 キッチンが使えてついでに、空腹を感じたので食事にチャレンジしてみる。

 空腹を感じる時点でゲームとは乖離しているが、そこからは目を背けた。

 ここで食事が出来ればとりあえず絶対安全な空間があるということで、安心できる。

 そちらの確認の方が大事だ。


 ≪ホーム≫には食材も豊富にあるし、取得スキルに料理スキルもあるものの、ゲーム上ではある理由で空腹は満たされない。

 

 ゲームに熱中するあまりに栄養失調を起こす人間がでたのだ。そのために一時期、食べ物から味が削除された。

 味のないものを効果目的でもそもそ食べるのはかなり辛い。

 故に苦情が殺到し、どれを食べても甘いだけ、とか超薄味、とかの変遷を経て見た目通りの味に戻ることになった。

 そして当初の「ゲーム内で満腹になってリアルの食事をおろそかにする」という問題の解決のためにはサイズの変更が行われたのだった。

 

 アップルパイを作るのにリンゴを使う。

 リンゴのサイズは拳大だ。ワンホール、18センチの型でパイを焼く。

 現実とは違い、型に原材料を丸ごといれ、オーブンで数分焼くだけなのだが。

 その簡易行程を経て出来上がるのは、直径で3センチくらいのミニチュアアップルパイ。

 脅威の縮小率だ。

 シチューなども煮込んでいるとどんどん体積が減って完成品はコップ一杯にもならないという謎現象が起こる。

 ちなみに素材のままでは食べることが出来ない上に一つの品を食べると1時間他のものを食べられない。

 

 この現状でもその法則はしっかり受け継がれていてキッチンを使って作った品はそれもミニチュア化してしまった。

 素材のままで食べることは出来て、味もしたしそれなりの満腹感もあったのでゲームの仕様がそのまま適応されているというよりは、キッチンツールの問題のようだがこのまま果物だけ食べる生活には無理があるだろう。

 1時間に一つという制限もなくなっているので数を作れば良いのだろうが、そうすると素材の消費量が格段に増える。


 一応の安全は確保で来ているが引きこもることは出来ないようだ。

 このままここで引きこもるつもりはないが、何かあったときに逃げ込むには食糧問題を解決しないといけないというのを覚えておかなければならないだろう。




 (そもそもこの水ってどこから来てるんだろう……)


 キッチンの謎に引き続き、≪ホーム≫の機能を確認してみるが、中庭の池も健在。上空には青空が広がり日が照っていた。

 思わず空を飛んでみたが、元の仕様通り部屋の天井がある位置で見えない壁にぶつかってしまった。

 鍛冶部屋の炉ではナイフを試したが、これまで通りの使い方で作ることが出来たのでどうやら他の機能や仕様に大きな変化はないようだ。

 錬金術の部屋では一応万能薬を作成し、動作を確認している。

 

 さらに魔法の発動も確認したが、今のところ使えない魔法などはなかった。

 新しいゲーム世界のレベルがどうなっているのかは分らないが。


 Stigmaでルクレチアは決して強いキャラではない。むしろ、かなり弱い。

 元が創造神の加護を受けた生産キャラということもあってメイジ系スキルを基本にした今も、知識神の加護を受けた本職には1歩どころか20歩くらい譲ることになる。

 スキルは100で上限に達したとき特殊効果を得るのだが、これはスキルを指輪に封入し、消したときもキャラに残る。

 武器系スキルなら基本ダメージ10%アップだし、魔法系スキルならMPコスト半減などがある。

 これらは累積するので現在剣をメインに使う戦士でも、棍や暗器スキルを100にした過去があればダメージが20%上昇しているということになる。

 同じ戦士に見えても熟練者と初心者ではダメージが倍以上違うということが珍しくないのだ。

 それはメイジでも同じことなので、ルクレチアは防御力もダメージも劣り、スキル使用コストも高いという3流のメイジでしかない。

 知らない世界、知らない土地に行くには著しく不安がある。

 逃げ足にだけは自信があるのだが。


 (一応、指輪は暗器と毒スキルのを装備しておこう……)


 スキル封入の指輪は2つまでしか装備できない。それが指輪装備の上限だからだ。

 指輪をつけているときはそのスキルを使えるので、「敵対種族特効:」という種族別にダメージを上昇させるスキルを狩り場によって付け替えるのが一般的だ。

 そしてもう1つの指輪は防御力を上げたりHPを増やしたりといった普通の装備をするものなのだが。

 ルクレチアはほとんど生産スキルしか封入していないのでどうしようもなかったりする。

 攻撃力のあるスキルで封入してあるのは「毒物」と武器スキルのうち「暗器」だけ。

 毒物スキルで作った毒を強化しつつ、暗器で敵に仕込むという暗殺者のような戦い方が出来たりする。

 毒物自体は他の武器でも使えるのだが、暗器だけは基礎ダメージの低さと引きかえに魔法使用の妨げにならないという特典があるのだ。

 故に友人に「毒殺メイジってどこの暗殺者?」とかいわれたりはしつつ。

 正面からやり合えない敵から素材をゲットするためにがんばってみた。


 召喚魔法で呼んだモンスターをぶつけ、ちまちま攻撃魔法を使い、毒を入れ続けて半日とかかかったりするが。

 さらには、その敵を熟練のメイジが30分かからずに倒すのを見たので使うのをやめたスキルだったりするが。

 ……思い出すと切ないものはあるが。

 一応、ルクレチアが使える中では一番強い組み合わせである。


 (……移動力と回避力上げて、逃げる方向に特化しようかなぁ)


 がんばってもかなりショボイ攻撃力を思えば、その方がいいかもしれない。

 移動スキルにかなりのリソースを割いてるので逃げる方向に特化してしまえば、追いつけるものは少ない。魔法も併用しながら逃げればほぼ確実な生存率を誇っていたりする。

 素材集めの為に磨いた移動力だが、意外と役に立っている。


 少し悩んだが移動スキルは素で身につけているので指輪はこのまま毒と暗器で行くことにする。

 暗器はブローチとネックレスにダガーを仕込んだものを持ち、さらに念のために編み込んだ髪の中に鋼線を入れておく。

 暗器は隠せてこそ、という面もあるので隠すのにもスキルが適応される。見破るには高い幸運値か同じ暗器スキルが必要になってくるのでまず安心だろう。モンスターにはなんの意味もないが。

 いきなり万能薬目当てに拉致監禁、ということはないだろうがこの状況だとモンスター相手より人間の方が怖い。

 用があるのは街の病人だけなので、モンスターに会う予定もないことだし。


 ルクレチアは暗器スキルを持ちながらPKプレイヤーキラーをやったことはない。

 Stigmaの中でもPKが出来ない自分が、さらにリアルなゲームで人を殺せるとは思えないので暗器には強い麻痺毒を塗ることにした。

 強力な睡眠薬もあるが、一時間行動不能な麻痺毒の方が安全が確保出来るだろう。


 後は普段着から戦闘も意識したローブに着替えれば、準備は完了だ。

 鎧を着込むのも考えたが彼女に装備できるのはクローク系とソフトレザーに分類される皮鎧までなので見た目で警戒されないよう、鎧は却下する。

 レア度や特殊能力にも寄るので一概には言えないが、基本的に鎧はクローク系よりはレザー系、レザー系よりは金属鎧の方が格段に性能が良くなる。

 見た目的にも強くなればなるほど壮麗かつ重厚なものになっていく。

 

 あまり派手派手しいものを着る気にならなかったので、スノーリリーシリーズという白銀色の長衣を選ぶ。

 基本は首からつま先まで覆う長衣だが、シリーズになっている純白のケープとレースの付け袖を重ね、さらに腰にミスリルで編まれた布を巻き付ける。頭には名前の由来にもなった白銀の百合をあしらったアージュコーム。

 これに加えて靴も同シリーズで揃えて白い編み上げサンダルを履くと全身真っ白だ。ある意味限りなく派手な気もする。

 まぁ、編み込んだとはいえ長い薄藤色の髪が結構主張していので全体的には地味だろう。

 本人の希望的観測と、一定以上の防御力を持つ装備品のなかでは、という注釈が付くが。

 





 準備を整え、覚悟を決める。

 街中に薬を配るだけだ。

 相手も命が掛かってるのだから薬を拒否することはないだろう。

 そして薬の配布が終われば元のゲームに戻って、ログアウトすればいい。

 人に話すと精神状態を疑われるだろうが、夢でも見たと思って忘れてしまおう。

 



 記録石を取りだし、その俯瞰図を見つめる。

 記録した部屋を上空から見た、その景色に人は映らない。

 それは無機物しか写さないせい故のことで、人が居ないということではないので移動直後に人に囲まれる可能性もある。

 昨日の青年や人々がいる可能性もあるだろう。



 ルクレチアは胸に着けた木の葉型のブローチを握りしめながら、転送の魔法を発動させた。


 

どこまでも説明が続きます。

ごめんなさい。


4/6 17時頃料理スキルに加筆・修正しました。

4/28 料理スキルに加筆・修正しました。

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