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処刑寸前の悪役令嬢に転生しました。

作者: 有郷 葉
掲載日:2026/10/25


 VRゲーム中に寝落ちし、気付けば私は断頭台に固定されていた。


 ……おかしい。私は確か、VR乙女ゲーム『恋のマジカル・バトルロワイヤル』(通称、恋のマジバト)をプレイしていて……。

 おや? ここってそのゲームの世界だよね? 目の前に見覚えのあるキャラ達が並んでいるし。ということはまだゲームの中にいてログアウトしてないんじゃ……。


 それにしても、キャラ達がやけにリアルになっているな。まるで本物の人間みたいだ。ヒロインのピンク頭、このリアルさだと結構きつい……。

 うん? 私がプレイしているはずのヒロインがそこにいるってことは、私は誰?

 この見覚えのある金髪縦巻きロールは……、悪役令嬢アシュリーか!

 し、しかも、断頭台ということは、これはゲームの数あるエンディングの中でも一番えぐいアシュリー断罪ルート!


 ヒロインと王子との恋仲に嫉妬したアシュリーが悪逆非道の限りを尽くし、最後は斬首処刑されるという多くのプレイヤーをどん引きさせたやつだ……。

 うん、私も、いくら舞台が中世西洋風ファンタジーの世界だからって乙女ゲームで斬首はないわ、とどん引きしたからよく覚えている。


 なるほど、私はアシュリーになっていて、今あの最悪のエンディングを迎えているみたい。


 いやいや、どうして! ゲームがバグったか! とりあえずVRゴーグルを外して……、あれ、ゴーグルなんてないよ? というより、現実の私がここにいる感じだ。

 まさか、ゲームの世界に転生した……?

 じょ、冗談じゃない! なぜにアシュリー! なぜに処刑寸前!


 え、頭の中にこの世界で生きたアシュリーの記憶が流れこんでくる。

 どういうこと? まるで私とアシュリーを同一化させるみたいに……。はっ! 私を完全なるアシュリーに仕立てあげようとしているのか! やめてー!

 ……たった今この悪役令嬢の中身は別人になりました、と言えば許してもらえる?

 無理だ! まず絶対信じてもらえない!


「では、これより罪人アシュリーの処刑を行う」


 静かだった処刑場に執行人の声が響いた。


 まままま待って!

 ここで死んだら元の世界に戻れる?

 もし戻れなくて実際に死んだら?

 …………。

 どうなるか分からない以上、今はとにかくこの場を切り抜けないと!


「……私を処刑してしまって、本当によろしいのですか?」


 私が咄嗟に発した言葉で処刑場の空気が固まった。

 思わず口から出たセリフだけど、これで少しは時間が稼げる! 今のうちに前世で得たゲームの知識を総動員して活路を見つけるしかない!


 改めて私は処刑場となっている部屋を見回した。といっても断頭台に固定されているので、正面しか分からないわけだけど。


 この場所は位置的には、牢獄とつながった王城の地下になる。

 目の前では私の悪逆非道な行いで被害を受けた者達が処刑を見守っていた。ヒロインの少女に、彼女と恋仲になった第一王子、その弟や妹の王族達だ。

 ……揃って私の首が飛ぶところを見学とか、鬼畜か? リアルになった分、ゲームのやばさが際立ってる……。


 とにかく考えないと。誰かに助けを求めるか?

 慈愛の精神を持ち合わせたヒロインのピンク頭とか? なんかヒロインらしく悲しそうな顔で私を見つめているけど、泣きたいのは今この状況の私だからね……。この子は駄目っぽいな。

 あと助けになりそうなのは……、もう時間がない! そうだ、あれが使える!


「アシュリー、何とか助かろうと適当なことを言っているんだろう? もう君の悪逆非道の数々は全て明らかになっているんだ」


 席から立ち上がった第一王子がそう沈黙を破った。

 くっ、まったくその通りだけど……、私は活路を見出した!


「……王家の秘宝、片方はまだ行方不明のままですよね?」


 私の発言は、今度は王族達をざわつかせた。


 私アシュリーは悪逆非道な行いの一つとして、王家に代々伝わる二つの秘宝を盗み出している。

 計画ではそれをヒロインの犯行に仕立て上げ、彼女をこの断頭台に送りこむはずだった。しかし、ヒロインを慕う者達の奮闘で計画は破綻。秘宝の片方である聖剣が私の元より発見されたことにより、ここに至る強力な物的証拠となってしまった。


 ゲームで描かれているのはここまで。

 もう片方の秘宝である宝玉については一切触れられていなかった。

 では、宝玉はいったいどこに行ったのか?

 もちろん私がまだ持っている。しかも、ストーリーと齟齬が生じないように念入りに隠した記憶があった。


「私をここで処刑すれば、宝玉は永遠に見つかりませんよ!」


 こう告げると処刑場のざわめきは一層大きくなった。


 さあ、早くこの断頭台から私を解き放って!

 執行人の手元がちょっと狂っただけで取り返しのつかないことになるんだから!


 ところが、周囲の面々はざわざわと相談し合っているのみで、一向に決断しようとしない。


 ……埒があかない。

 こら、ピンク頭、「ひとまず命は助けてあげてください」くらい言ってよ。慈愛の精神はどうした。なぜひたすら悲しそうな顔をしているだけだ。


 駄目だ、このままじゃ結局首をはねられかねない……。

 もう一押し、何か必要か。やっぱりあの中の誰かが私を助けたくなるような強力な一手……。

 ……あの子なら、協力してくれるかも!


 私は王女の一人をまっすぐに見つめた。


「ミラフィナ様、私の遺言を聞いてください」

「え……、どうして私に?」

「まあ、聞いてください。『あの女だけは許せない。平民のくせにうまく取り入って。どんな手を使ってでも邪魔してやる。あんな女に私の大好きなお兄様を』」

「待って待って! な、なぜあなたがそれを……!」

「現在ミラフィナ様がおつけになっている日記は私がすり替えた物です。元の日記は私が死ぬと同時に公開される手はずに」

「なんですってー!」

「秘宝の宝玉、大事ですよね?」


 私の問いに、ミラフィナ様は冷や汗を流しながら硬直してしまった。


 第二王女のミラフィナ様は、実の兄である第一王子に対して密かな思いを寄せている。

 とあるルートではその思いが暴走してヒロインを妨害する役どころに。

 やっていることはちょっとした嫌がらせ程度で、逐一日記につけていたりと、私に比べればかなりの小物ではあった。けれど、今の私には彼女以外に頼れる者がいない。

 悪いけど力になってもらおう。


 しばらく停止した後にミラフィナ様は突然座っている椅子から立ち上がった。


「い、一旦彼女の処刑は中止にしてはいかがでしょうか! 宝玉についてもう一度きちんと取り調べをしてからでもよろしいのでは!」


 ミラフィナ様は必死に兄や姉の説得をしてくれた。

 これによって、私はとりあえず牢獄に戻されることに。ついに固定されていた断頭台から解放された。


 ……はぁ、本当に焦った。

 完全に詰んだ状況だったけど、やれば何とかなるもんだ……。


 ――――。



 奇跡の生還を果たした私は再び地下牢へと戻ってきた。


 ああ、牢屋の中が天国に思える……。

 だけど、まだ一時的な猶予を貰っただけで安心はできない。次はここから自由になる方法を考えないと。

 やっぱりまだ彼女に頑張ってもらうしかないかな。

 たぶん、あっちから会いにきてくれるはず。


 と思っていると、鉄格子の向こうに近付いてくる明かりが見えた。

 現れたのは先ほど私を断頭台から救ってくれたミラフィナ様だった。


「望み通り処刑は中止にしてあげたわ! 早く日記を返して!」

「ここにはありませんよ。隠してある場所にご案内しますので、私をこの牢から出してください」

「さすがにそれは無理よ! 牢屋の鍵なんて取ってこれるはずない……」

「何もあなたに鍵を奪取しろとは言っていません。人を使えばいいでしょう。美人で口の上手いメイドを数人選び、看守達に酒と食べ物を差し入れさせるのです。隙を見て鍵を取ってきてもらってください」

「な、なるほど。さすが極悪令嬢のアシュリーだわ……」

「これくらいは普通に思いつきますよ。あ、私が欲しいのは牢の鍵ではなくてですね」


 私の密命を帯びたミラフィナ様は牢の前から去っていった。


 そもそも私は彼女の日記なんて持っていないんだけど。処刑場ではゲーム内で見て覚えていた文言を並べただけ。

 とにかく命が懸かっているのでなりふり構っていられない。

 生き残れるなら悪逆非道と呼ばれようが極悪令嬢と呼ばれようが、ご自由にどうぞといった感じだ。


 数時間ほど経っただろうか、ミラフィナ様が慌てた様子で駆け戻ってきた。


「取ってきたわよ! ほら!」


 と彼女は牢屋の中に鍵を投げ入れる。

 それを拾い上げた私は、すぐに手枷の鍵穴にさしこんだ。


 この手枷は私の魔法を封じるための魔法道具で、ミラフィナ様にはこれを外す鍵を取ってきてもらった。

 ゲームの設定では、アシュリーはそこそこの魔法の使い手となっている。

 実際に魔法を使うシーンはそれほどないものの、設定とつじつまを合わせるように私には風霊魔法を習得した記憶があった。

 そして、この私の記憶が正しければ……。


 手枷を外した私が手をかざすと、周囲を風が舞いはじめる。

 やがて小さな竜巻が形成され、牢獄の鉄格子を吹き飛ばした。


「やっぱり。魔法さえ使えればこんな牢屋なんて簡単に壊せますね」


 呟いた後に、巻きこまれたミラフィナ様が倒れているのに気付く。


「すみません、大丈夫ですか?」

「ひぃ……、私は、大変な悪魔を解き放ってしまった……」

「大袈裟ですね。私の魔法なんてそこそこなので、せいぜい脱獄に使える程度ですよ」


 と説明していると、通路の向こうから看守達がふらつく足取りで走ってくるのが見えた。どうやらしっかりと酒を飲まされたらしい。


「ミラフィナ様がご乱心なされた! 極悪令嬢アシュリーを解き放ってしまわれたぞ!」

「なんてことを! かくなる上は二人共捕まえろ!」


 むぅ、ではこちらも、かくなる上は力ずくで押し通るまで。

 大きな風の塊を作って発射。看守達をまとめて吹き飛ばした。


「よし、今です。ミラフィナ様、行きますよ!」

「いやー! どうしてこんなことに!」

「覚悟を決めてください。あなたはもう共犯です。あ、日記の件は嘘でした、すみません」

「いやー!」


 二人で通路を駆け抜け、さらに地上へと続く階段も一気に駆け上った。

 城の中庭に出るも、ここにも大勢の兵士達が。私達は完全に包囲されていた。


 かくなる上は力ずくで。

 暴風が周囲を吹き荒れ、兵士達を押し飛ばす。

 しかし、そんな私の魔法をものともせず歩みを進めてくる者が一人。


「……アシュリー様、脱獄なんて駄目ですよ」


 ピンク頭のヒロインがまっすぐにこちらへ。その目は瞳孔が開いており、一点に私を捉えている。


 こ、怖っ、なんかサイコパスみたいだ……! とりあえず迎撃!


 風の塊を放つも、ヒロインが展開した光の壁に触れると瞬時に消失した。

 彼女は特に気にする様子もなく言葉を紡ぐ。


「……あなたは数々の罪を犯したのですから、きちんと処刑されないと。そうでないと私は定められた幸せに辿り着けないのです。あなたの首が切り落とされないと、物語が進まないのですよ!」


 言い放った直後に手からビーム砲を発射。

 咄嗟に私はミラフィナ様の体を抱えて横に跳ぶ。振り返ると背後の城壁が真っ二つになっていた。


「なななな何なの、あの子! 言ってることもおかしいし!」


 ミラフィナ様が涙を流しながら叫ぶ。


「ええ、まるで人間兵器(かつ本物のサイコパス)。本当にやばいです……」


 おそらくヒロインだけに他の者以上にゲームの設定に囚われてしまっている。

 言ってみれば、ゲームのストーリーを守護する者、あるいはゲームの大いなる意思そのもの。つまり、ストーリーに反して生き残りを図る私にとって天敵のような存在だ。


 しかも困ったことに、魔法の実力はあのピンク頭の方が遥かに上。設定でヒロインは、類稀な光霊魔法の才を持つ、とされていた。そこそこ表記の私が敵うべくもない。


「かくなる上は全力で逃げます! 逃亡速度なら風霊魔法の私に利あり!」


 私は自身とミラフィナ様の体に風を纏わせ、上空へと浮かび上がる。

 これを見たピンク頭がさらにビーム砲を撃ってきた。

 が、私達は空中を旋回してどうにか回避。一層高度を上げて執拗な攻撃から逃れた。


「絶対に逃しませんよ、アシュリー様! 断頭台に戻らないなら私の手で処刑してあげます! 必ず! 必ずです!」


 大空を睨みながら声を張り上げるピンク頭。もはや慈愛に満ちたヒロインの面影は全く窺えなかった。


 ……私はとんでもない怪物を目覚めさせてしまった。豹変しすぎていて本当に怖い……。

 どうすれば奴を振りきって私にかけられた死の呪いを解けるだろう。

 ゲームの舞台になっているのはこの王国のみで、外側の世界については一切設定されていない。つまり国外まで逃げれば追いかけてはこないと思うんだけど……。


 上空を飛行しながらそう呟くとミラフィナ様の顔が輝く。


「ゲームとか設定とかよく分からないけど、だったら早く国外に! あんなのが義理の姉になるのは冗談じゃないし、私ももうこの王国に未練はないわ!(指名手配されてるし!)」

「でも、絶対に大丈夫とは言いきれませんよ。そういえばミラフィナ様、大好きなお兄様のことはいいんですか?」

「……実は、なぜか今はもう何とも思ってないのよ。そもそも私達は実の兄妹だし、どうしてあんなに執着していたんだか」

「あ、きっとそれは設定の呪いが解けたんですよ。いいですねー、羨ましい」


 とにかく国外までピンク頭が追いかけてくる可能性がある以上、備えはしておくべきだと思う。

 服も着替えたいし、まずは自宅である公爵家の屋敷に戻るかな。


 と高度を下げて自宅屋敷を目指す。

 到着すると、時間もないので窓から直接自室に入った。


 この一時帰宅にミラフィナ様は不服そうだった。


「のんびりしている場合じゃないでしょ! あいつが来る!」

「国外逃亡するにしてもお金は必要です。私はしばらく獄中生活だったので着替えたいですし。ああ、ミラフィナ様も欲しい物があればご自由にどうぞ」


 手早く服を着替えた私は、宝石や装飾品を片っ端から袋に詰めていく。最後に金庫内の札束を入るだけ入れた。


 よし、これで人生を十回くらい送れるだけのお金になる。

 そうだ、あれもあったね。持っていこう。


 金庫の奥の隠し戸を開け、中に入っている物を掴み出してポケットにしまった。

 さあ準備万端、と視線をやるとミラフィナ様が拳銃を手に持っている。


「机の引き出しに普通に入っていたから。さすが極悪令嬢アシュリーね。これであのピンク頭を撃ち抜いてやるわ!」

「……まあ、たぶん効かないと思いますけど」


 飛行魔法で自宅屋敷を出た私達は、次なる目的地へ。

 辿り着いたのは城下町にある一軒の酒場だった。

 ここでもやはりまずミラフィナ様が不服を述べてくる。


「だからのんびりしている場合じゃないって! こんな所に何の用があるの!」

「この酒場には私の生存に重要な人物がいるはずなんですよ。えーと……、よかった! ちゃんといた!」


 フロアの片隅の席にいる長い銀髪の少女を見つけ、私は急いで駆け寄る。


「レイシアさんですね。あなたを護衛に雇いたいのですが」


 暗殺者レイシア。彼女もゲームの登場人物の一人だった。

 ヒロインにとって最悪のバッドエンド、すなわち死にエンドでのみ出てくるマイナーキャラになる。そのルートではアシュリーが雇ったレイシアさんが見事にヒロインを仕留めていた。

 つまり、私の天敵であるあのピンク頭の天敵と言える存在だ。

 マイナーキャラだけに設定も情報も少なかったけど、いつもこの酒場で仕事を待っているというのは記憶にあった。


 レイシアさんはしばらく私を観察した後に口を開く。


「あんたのことは知ってる。公爵家のアシュリーだろ? 今日、処刑されるはずじゃなかったか?」

「無事に脱獄してきました。それで、今後のためにあなたを雇いたいんですよ」

「…………、金次第だな。ちなみに期間は?」

「今後、私が生きている限りずっとです」

「話にならない」

「いいえ、なります。金次第なんでしょう?」


 私は自宅から持ってきた袋を開けて見せた。


「豊かな人生を十回送れるくらいの額があります。全て差し上げますので、私を守ってください」

「引き受けた」


 レイシアさんが即答し、私達の契約は成立した。

 しかし、若干の不安を覚えた私は一応釘を刺すことに。


「……私を早々に始末して契約完了、とかはなしですからね?」

「私はプロだぞ、そんなことするか。目の届く範囲にいる限り、絶対に守ってやるよ」


 おお、頼もしい。これでもう奴が来ても安心だ。

 何しろレイシアさんは……。


 と一息ついていたその時だった。


 私達のいる酒場の天井を突き破ってビーム砲が襲来。

 そして、できた大穴から光を纏った死神がゆっくりと降下してくる。


「ふふふふふ、私だって空くらい飛べるのですよ。さらに、魔力感知でどこに逃げようと見失うことはありません。さあアシュリー様、処刑のお時間です!」


 狂気じみた笑みを湛えたピンク頭がそこにいた。


「この化け物が! これでもくらえっ!」


 真っ先に、恐怖に駆られたミラフィナ様が拳銃を抜く。宣言していた通り、頭部を狙って躊躇いなく銃弾を発射した。

 だが、放たれた弾はヒロインが纏う光に触れた瞬間に停止。


「ふはははは! この私にそんなおもちゃが通用するものですか! ……ミラフィナ様、どうやらあなたも処刑しなければならないようですね」

「ひいっ! ば、化け物……!」


 余計なことをしたせいで新たなターゲットになってしまったミラフィナ様はズザザッと後退。

 ……躊躇いなく銃で撃ち殺そうとするとは、この王女様も相当だけど。ともかく、レイシアさんを頼った私の判断は間違っていなかった。


「目の届く範囲での出来事です! よろしくお願いしますね!」


 私も後ろに下がりつつ、護衛の彼女に後を託した。

 これを受けて、レイシアさんは一歩前へ。


「任せろ。このピンク頭とは一度手合わせしたいと思っていたところだ」

「あなたは誰ですか! 処刑の邪魔をするならあなたも処刑します!」


 とち狂った言葉を吐きつつ、ヒロインはビーム砲を放つ。

 時を同じくしてレイシアさんの方は防御魔法を発動。目の前に氷の防壁が構築された。


 二人の魔法がぶつかり合う。

 凄まじい衝撃波ののち、そこにはレイシアさんの氷壁が完全な形で残っていた。


「バ、バカな! 私の〈処刑砲〉が防がれるなんて……!」


 愕然とするピンク頭に対し、レイシアさんは涼しい顔で。


「ふむ、悪くはない攻撃だった。思った以上に威力があったし、殺意も明確に込められていたからな」


 ……ビーム砲のネーミングに、明確な殺意。間違いない、やっぱりピンク頭はもう立派なサイコパスだ。

 それにしても、レイシアさん強いな。設定情報は少ないものの、覆しようがないワードが入っているだけある。何しろ『王国最強』の水霊魔法の使い手、だもんね。

 会話をしながら最強の彼女は手をかざしていた。


「じゃあ、次は私が攻撃する番だな」


 ヒロインの周囲を強力な冷気が舞いはじめる。

 彼女は酷い叫び声を上げつつ必死に抵抗。


「ぎぃやあぁぁー! まさか、この私が! 物語の主役であるこの私が……!」


 カキンッ!


 抵抗虚しくピンク頭はすごい表情で巨大な氷の中に閉じこめられた。


 ……最後は完全に悪魔封印だったな、何だこのヒロイン。

 いや、待って、まだ死んでないし、まだ抵抗もやめてない!


 彼女の体から溢れる光が、本当にゆっくりとではあるが周囲の氷を溶かしているようだった。中から微かに声が聞こえる。


「……ヒュー、ヒュー……、絶対、に……、処刑、して、やります……」


 もう勘弁して……。まるでターミネーターだ。

 一方で、レイシアさんは興味深そうに自分の作った魔法の氷を眺めていた。


「こっちも殺すつもりで魔法を使ったんだけど、驚異のしぶとさだ。でもまあ、普通の氷じゃないからあと丸一日は出てこれないと思う」


 うーん、死にエンドとはルートが違うから生命力が高かったのかな。あるいは、大いなる意思の力で強化されていたか。

 思案する私を他所に、ミラフィナ様がピンク頭氷をコンコンと小突く。


「じゃあ、今のうちにこの悪魔を海の底深くに沈めましょうよ。アシュリー、風で運んで」

「……発想が小悪党ですね。そこまではしなくていいと思います」

「極悪令嬢とは思えないセリフね。こいつ、国外まで追いかけてきたらどうするの?」

「その時はちゃんと沈める方向で。とりあえず王国を出ましょう。お金もたっぷりありますし、新たに人生をやり直すんです」


 私の言葉にレイシアさんが契約金の袋を抱き締めた。


「これはもう私の金だぞ」

「分かってますって。まだ持っているんですよ、とっておきの財宝を」


 とポケットから取り出したそれを見たミラフィナ様の顔が輝く。


「秘宝の宝玉ね! 確かに、私のご先祖様はこれともう一方の聖剣で王国を築いたそうだから、小さい国くらいなら買えるかも?」

「なるほど、だったら女王に……、いや、もう処刑されるのは懲り懲りだしやめておきます」

「私はまた王族になりたいのに。ともかくアシュリー、今日からあなたのことをお姉様と呼ぶわ。ちゃんと面倒見てね!」

「まあ巻きこんだのは私ですから、別にいいですけど……。じゃあ、皆で新たな人生を始めましょうか」


 そう、私はようやく自分の人生を始められる。

 念のためもう一度、頭にVRゴーグルがないか触ってみるもやっぱり確認できなかった。これは現実だ。

 はぁ、どうしてこんなことに……。

 転生してしまったものは仕方ない。

 どういうわけかこんな乙女ゲームの世界に来てしまったけれど、これからの選択次第で楽しく生きていけるだろう。

 私はもう、ゲームのストーリーからも設定からも解放されたんだから。






お読みいただき、有難うございました。

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