2032/07/24
ツバキは今日も昔と同じ笑顔を向けてくる。
心なしか疲れた顔で。
『ごめんね先週は。いつの間にか帰っちゃってたね』
目は合わない。
『よかったね。結婚ってことはさ、対等に歩いて行ける人が見つかったんだ。私みたいにおんぶにだっこじゃなくって。』
昔も同じことを言われたことを思い出した。
今聞いたら全部わかるような気がする。
窓の方を向く彼女に尋ねる。
「あれから6年経った。精神的に言えば、俺は今、ツバキの6個上だ。情けなくていい。ずるくてもいい。
いま思ってること、教えてくれないか」
呼吸荒く、ゆっくりと話し出す。
『あなたの隣を、対等に歩きたかった。ずっとそばにいるために離れたほうがいいって思ってた。でも、あなたの人生を約束で縛るなんてできない。ちゃんと切ってあげないと対等じゃないって思った。だから別れたかった。好きだから、別れたかった。あなたのことが、自分よりずっと、大事だから』
利口だと思っていたツバキは、こんなに不器用な人間だったのかと、10年遅れて知った。
また泣きじゃくる彼女を慰めるために抱きしめる。
『ねえ、さつき、私、終わらなきゃね』
「もしかして、俺に嫌われたいって思ってる?」
『…できるの?
…できた?』
ここまで言われて、ようやくすべてが彼女の作戦通りだということに気が付いた。
俺に誰と歩むかの選択肢を与え、俺からの気持ちを自分の手で終わらせたのに、
自分は終わらせられなくて、俺から縁を切るように仕向けたのだ。
「できるわけないだろ」
二人で歩いた六年が溢れる。
鼻歌も会話も音楽も、すべてが笑顔の思い出。
最後がどうあったとしても、それだけは残り続ける。
二人の馬鹿の物語。




