2025/10/31
元カノから着信があった。
『いまからカラオケオールしない?』
22時11分。
俺の家からは自転車で行ける距離。
いつも返事はOKだった。
この日も同じ。
カラオケルーム410号室。
部屋に入り、談笑。
ふと元カノは言う。
『よく話に出てくるサークルの子と付き合えばいいじゃん』
俺の答えはいつも否定だ。
でも、この日だけは違った。
「付き合ったよ」
『おめでと』
沈黙の後、鼻をすする音が聞こえて、ドリンクから口を離し、顔を上げると、元カノは泣いていた。
うまく息もできない様子で、泣いていた。
意味が分からなかった。振ったのは彼女のほうだ。
『ずっと待ってるって、絶対戻ってきてねって、言ってたのに』
その記憶は抜け落ちていた。
「そんなこと言ったっけ」
彼女はトイレに立ち、戻ってくると隣に座った。
カラオケ、密室、元カノと二人きり。
俺は何も考えずにここにいた。
涙が止まらない彼女に抱き着かれ、慰めた。
彼女が見上げてきて、美人がぐちゃぐちゃだなと思った。
気が付くと、キスをしていた。
この日以降、彼女は俺を追い回すようになった。
バイト終わりの出待ち、積極的な食事の誘い、DM頻度も異常に増えた。
俺も半年前は同じことをしていた気がする。
でも彼女には頑なに拒否された。
だから諦めて、新しい恋人を作った。
俺は、元カノからの誘いを断らない。
必要として縋ってくる彼女を、突き放す勇気はない。
ある日、ラーメンを食べた帰り、元カノがホテルに誘ってきた。
悩んだが、じゃんけんで負けたのでOKした。
不思議な話だ。
俺に恋人ができる前のワンナイトは向こうから断ってきたのに。
最中、キスをすると、涙の味がした。
事後、俺を強く抱きしめる腕から逃れると
『ごめんごめんごめん』
そう言ってまた泣いていた。
面倒だったので、シャワーを浴びに行った。
戻ってきて、元カノに聞いた。
「気は済んだ?」
元カノは言った。
『気は済んだかって?済むとかじゃないよ』
少し機嫌が悪いようだった。
そのあとは二人で、備え付けの露天風呂に浸かり、部屋を後にした。
出る直前、彼女は手を広げて、昔のようにハグを迫った。
気分がよかったので
「しょうがないな」
と言って、抱き合った。
これが、最後のハグだった。
そこから4カ月後、元カノは俺の恋人にSNSで浮気の事実を叩きつけた。
もう限界だったと言われ、怒った俺はそのまま元カノと縁を切った。
【どうにかなるさと言えるあなたにとっての1が見つかりますように】
と一文添えて。
記憶喪失だと連絡が来るまで、一度も会うことはなかった。




