自習時間
三題噺もどき―はっぴゃくにじゅうさん。
小さな囁きが、時折聞こえてくる。
眠気に耐えきれず伏せている人も居れば。
勉強に集中している人も居る。
「……」
時計を見ればまだあと半分も時間が残っていた。
教壇には居るはずの教師がいない。
まぁ、自習時間に監視はそこまでいらないと判断したんだろう。
教師も教師で今はやることがあるだろうからな、テストの回答とか、高校受験の準備とか。
「……ふぁ」
おかげで気が抜ける。
漏れたあくびのせいで、涙が出そうになった。
眠たい。この後もう1時間テストがあるのだけど……起きていられるだろうか。
「……」
基本的には、次のテストの勉強時間として使うべきなのだろうけど。
次のテストは、教科担当が言うには、冬休みの課題そのまま、答えもそのまま出すと……いう事なので、皆そこまで重視していないのだろう。
そういうモノこそ覚えてちょっとでも成績の足しにしたらいいのに……とは思うが、かく言う私も勉強をしているわけではないので何も言えない。
「……」
一応、机の上に課題を広げてはいるけれど……開始10分ぐらいで見終わって飽きてしまった。そもそもそんなに問題数があるものではないし、教科自体が暗記科目のところがあるから、できればテスト開始直前とかに見た方がよさそうだ。
「……」
それでまぁ、飽きたので。
テスト期間中に読めていなかった本を読んでいた。
自習時間の難点は、他のクラスに行けない事だよな。あの子の教室にでも行けたら、話でも何でもしながら時間を潰せたのに。
「……」
ちなみにこのクラスに居る女子は、数か所で固まっている。
そこから、小さなささやき声と、くすくすと言う笑い声が聞こえてくる。
……イヤホンをしていいのなら今すぐにでもつけるのだけど。髪が短いので見えてしまうし、そのタイミングで教師にでも見つかったら面倒なので、イヤホンも出来ない。
「……」
静かにしてくれればいいのに……人のささやき声や笑い声、特に女子の甲高いキャラキャラとした声は苦手なのだ。くすくすと言うのも嫌いだ。
どうにも居心地が悪く感じるし、自意識過剰なのはわかっているが、こちらに向けられているような気がしてならない。
「……」
隣であの子が笑う分には、そんな事ないのに。
「……」
ふと、そんなことを思い、少しだけ気が楽になった。
手元の本に意識を移し、読書に集中する。
ライトノベルの、シリーズものを読み進めているのだが、これが結構気に入っている。見開きの片方には、紋章を浮かび上がらせた主人公のイラスト。ストーリー的には一番いいところだ。バトルシーンみたいな。
昔から魔法とか、神話とか、そういう物語が好きだった。
端的に言うとファンタジーに分類されるんだろうか。
「……」
現実に全くあり得なさそうな話から、現実の中にもしかしたら潜んでいるかもしれない、そんなものまで。
たまに怪談を読んだりもする。推理物はあまり読まない。頭を使って読むのは苦手なので、ただすらすらとストーリーが入ってくる方が読んでいて気持ちがいい。
エッセイとか自己啓発本とかは、まだいいかなと言う感じだ。一応、図書室には置かれている。あぁ、恋愛小説とかは一度も読んだことはない。
「……」
ページをめくれば、文字の羅列が、現実を忘れさせてくれる。
遠くから聞こえるささやき声は少し鬱陶しいけれど。
自習時間なんだから、せめて自分の席で大人しくしていればいいのに。
まぁ、勉強をしていない私が言う事ではないかもしれないが。
「……、」
全体の3分の1程を残したあたりで、教室の扉が開く音がした。
一気に教室が静寂に包まれる。
この時間の監督である教師が戻ってきたようだ。手には何かを持っているようだが、何かは分からない。大方次のテストの紙とかだろう。固まっていた女子はそのままそこにいる。
時計を見れば、のこり15分ほど。
「……」
チャイムが鳴るまで読書をさせてもらうとしよう。
今いいところなのだ。
お題:涙・時計・紋章




