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濁流の中で  作者: 一宮 沙耶


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3話 脳移植

「これは、どういうことなんだ?」


あまりの衝撃に何がなんだかわからなかった。


「おちついてください。ガーナの事件で、あなたは体を真っ二つにされ、もう絶望的だった。ただ、その横に、同じ日本人の女性が頭を撃たれ、死亡していたが、体には奇跡的にも1つも傷がなかったと聞いています。そこで、近くにいた外科医が、君たちを夫婦と勘違いし、どちらか1人が生き残ることが2人の願いだろうと、その場の判断であなたの脳をその女性に移植したんです。」

「僕の遺体は?」

「あまりに死者が多くて、死亡者はその場で焼かれて、骨だけが遺族に渡されたと聞いています。それで、あなたのご両親には、あなたは死んだと伝えられて、遺骨だけが渡された。そして、この体の女性のご両親についてですが、残念ながら、事故でお二人ともお亡くなりになっていました。」


おおよその状況は理解できた。


「話しを戻しますが、あなたは急に女性となってとまどうと思いますが、生き残ったんですから、命を大切にしてもらいたいんです。この体の女性として、生きていって欲しい。」

「会社にはどう伝えているんですか?」

「あなたは死亡、女性は生き残ったと伝えてあります。会社は、労災として、君の治療費、入院費はすべて会社負担としているから安心してもらいたいです。給料もそのまま払うと言っていました。そして、体が戻ったら、会社に復帰してもらいたいということでしたよ。いい会社ですね。また、この体の持ち主だった女性と一緒に仕事をしていたのであれば、復帰しても違和感なく働けるでしょう。」

「わかりましたが、女性として生きていくには不安があります・・・。」

「不安があっても、生きていかなければいけないし、時間とともに慣れますよ。」


つらいリハビリを経て、やっと、会社にも復帰できるようになった。

でも、いくら体は女性でも、女性として暮らすにはすぐには慣れなかった。


また、会社では、昔働いていたのに、全く別の会社に感じた。

周りからは、不幸な事件を憐れむような目を向けられる。

この女性の同期とは、一緒に過ごした時の話しがわからず、記憶を失ったと思われた。

それ以上に、女性どうしの会話にもついていけなかった。


この職場はコンサル会社。

だから、男女に限らず、合理的なゴールを設定し、論理的なプロセスを考える。

でも、プライベートな時に、正しい答えだけ言っていると仲が悪くなることに気付いた。


どうも、女性どうしの会話は論理だけではないようだ。

それに気づくころには、友達だと言ってくれている人は周りにいなくなっていた。

事件の後、私は、嫌な人になったと言って。


また、会社は、ガーナでの事件を受けて後進国支援事業は撤退を決めた。

社員を傷つけるわけにはいかないと。

でも、後進国支援事業は採算が悪く、会社は撤退したかったことを私は知っている。


そうして、私は、M&Aチームに動かされる。

でも、そのチーム長は女性蔑視の考えが強かった。

結婚して子育てで休む女性には、重要な仕事を任せられないと。


男性のときは気づかなかったけど、日本はそんな国なのかもしれない。

アメリカでさえ、女性独自のマイナス思考が組織のトップになるのを阻んでるらしい。


アメリカの実験で、ネットで顔出しをしてない人気の男女の投稿者が交代した。

女性がなりすました男性の投稿は好評を得た。

男性がなりすました女性の投稿は批判を受けた。なまいきだと。

アメリカでさえそうなんだから、日本はもっと女性に厳しい。


私には重要な仕事は任されず、明らかに雑務ばかりをやらされた。

そして、クライアントの接待には呼ばれ、おじさんの横に座らせられた。

私は新たな命を授かったけど、こんな生活を続けるためだったのだろうか。


会社がいくら、あなたが大切だとか、人が大切だとか言っても私は信じない。

特にコンサル会社は、いつでも、冷徹に人を切り捨てる。

だから、社員は、自分で生きる道を自ら考えなければいけない。


私は、転職をすることに決めた。

この会社に未練がないわけじゃない。

一流のコンサル会社で、優秀な人も多く自分のスキルアップには最適。


でも、そんなときに、花音のことを知った。

花音の会社に行けば女性でも活き活きと仕事ができる。

あの花音なら、いつも応援してもらえる。


私の心は決まっていた。

花音の会社に転職する。

これまでの経験は、花音の会社でも活きるからちょうどいい。


私は、花音の会社の面談に歩き始めた。

でも、花音は私の思っている人ではなかったことを、その時点では知らなかった。

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