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異世界奇譚  作者: ツチノコ太郎
ep.2 聖女
6/22

06. 邂逅、あるいは――

時刻は正午。

王都のメインストリートは相変わらず人で溢れていた。


だが、いつもと違う。

道沿いに並ぶ店はどこも慌ただしく、装飾や屋台の準備に追われている。

喫茶店の制服を来た猫人種の少女が両手に荷物を抱えて走り、鍛冶屋の前ではドワーフの男が険しい表情で腕を組んでいる。


(……何かあったか?)


足を止めて考え込んだところで、すれ違った親子の会話が耳に入った。


「ママ。もうすぐ生誕祭だね!楽しみ!」


「そうね。可愛い格好して行きましょう」


「うん!わたし聖女様に会えるの楽しみ!」


(ああ……もうそんな時期か)


忙しさにかまけて、すっかり忘れていた。


――聖女。


数年前、突如として作物が育たなくなり、人々は病に冒され、王都全体が滅亡の危機へと陥った。


王を始め、この都市の重鎮達があらゆる手を尽くしたが一向に解決策は見つからず途方に暮れていた。


そんな中、突然現れた一人の少女。


方法は知らない。

だが、彼女は数日で“すべて”を終わらせた。


奇跡を目の当たりにした王が涙ながらに感謝し、聖女と讃え、”聖教会”を作り、居場所を与えた――と聞いている。


生誕祭は、その聖女への感謝を忘れないための年に一度の大規模な祭りだ。噂に聞く彼女の美しい容姿を一目見ようと、例年多くの人で賑わう。


(トラブルが増える時期でもある)


特に、護衛。


聖女の護衛を務めるという聖教会直属の部隊――ヴァイス・シャッハ。

純白の鎧に身を包んだ六人編成()()()


どこからか流れてきた噂であり、俺は一度も見たことがない。

かつてベルベットに依頼しその存在は掴んだものの、結局具体的なことは何一つ分からなかった。


(……明らかに不自然だ。この前の事件といいーーー)


そんなことを考えながら歩き出そうとした、その時だった。


ふわり。


白い羽が、一枚。


風もないのに、俺の視界を横切った。


(羽......)


不思議と目を離せないソレに、思わず手を伸ばしかけ――


「君。ちょっといいかな」


背後から、鈴を転がしたような声がした。


喧噪なこの場に相応しくないその声に反応し、振り返った瞬間、息を忘れる。


そこにいたのは、少女だった。


腰まで届くウェーブのかかった金の髪。

人形のように整った顔立ち。

蒼く煌めく瞳。


左右で白と黒に分かれた修道服。


(……一致する)


噂で聞いていた彼女の姿、そのもの。


「……聖女、様」


「うん。聖女です」


太陽のような笑顔で、そう言った。


瞬間、周囲がざわめく。


「え!?」

「おい、あれ」

「聖女様!?」

「顔ちっさ!可愛すぎじゃない!?」


護衛も連れずに堂々と現れた聖女に、人々は混乱していた。

中には気を失う人もいる。


しかし、彼女はそんな周囲を意に介さず俺を見た。


「ーーーっ」


全てを見透かすような、瞳。


まるでどこまでも深い闇に引き込まれる、そんな気がして思わず唾を飲み込んだ。


そんな俺の内心を除くように前屈みになると、聖女様は口を開いた。


「君、ロイス君だよね。お願いがあってさ」


(……なぜ俺の名前を?)


違和感を飲み込み、頭を下げる。


「光栄です。それで、ご用件は?」


自分たちを中心に広がる周囲のざわめきを耳にして、噂の護衛は何をしているんだと内心思いながら聖女様に問いかけると、彼女はようやく今の状況に気づいたのか周囲を見渡して困ったように指で頬をかいた。


「あ~……やっぱりここではちょっと……」


貴方が原因ですよね?


思わず突っ込みたくなる気持ちを押さえて、一刻も早くこの場を納めるべく返事をしようとした時だった。


「おい、聖女!!」


怒声が割り込んだ。


人混みを押し分け、痩せこけた男が飛び出してくる。

その目は、明らかに正気ではなかった。


本能的に、俺は聖女を庇うように前に立つ。


しかし、その男はこちらをまるで認識していないかのように背後の聖女様を指さすと、怒りもあらわに口を開いた。


「……聖女!!お前がっ.......お前のせいで……!!」


背後で、聖女がわずかに息を呑むのが分かった。


「聖女様。あの男は知り合いですか」


小声で尋ねると、彼女は首を横に振る。


「知らない。初対面だよ」


声は平静だが、手先が震えていた。


俺は男に向き直る。 


「ここで騒ぐな。話は――!?」


直後、脳内をけたたましいアラームが鳴り響いた。


咄嗟に腰の双剣を掴む。


「死ねえええええええ!! 異能《指弾(フィンガーバレット)》!!」


男の人差し指魔素が集束し、黒い銃口に変化した。


(来る)


次の瞬間、耳をつんざくような破裂音と共に弾丸が放たれた。


突然の発砲にその場が沈黙に包まれる。


「は、はははははは、どうだ!これであの女も……は……?」


指先から硝煙を上げ、積年の恨みでも晴らしたかのように騒いでいた男の動きが止まった。


キン、キン。


やや遅れて石畳の地面に金属音が響いた。それは中心で綺麗に分断された弾であった。


「……な、は?」


まるで幽霊(ゴースト)でも見たかのように大きく口を開き固まる男に対し、俺は先程よりも一段低い声で告げる。


「王都での無許可異能使用は重罪、特例を除き認められない。子供でも知っている常識だ。お前、正気か?」


「……っ!」


気圧され思わず後ずさりした男は、遅れて自身の痴態に気づき顔を朱に染めて逆上した。


「がっ、ああああああああああああああああああああ!?」


今度は両手を前に向け、金切り声で絶叫する。


再び俺の脳内にアラームが流れる。


「異能《二丁(デュアル)指弾(フィンガーバレット)》!!」


(遅い)


男が放った全弾を斬り伏せ、間合いに踏み込み、首元を挟むように二対の刃を突きつける。


「動くな。次はない」


「……ぐっ」


男は一瞬抵抗しようとするも、今度こそ諦めその場に跪いた。




誰かが通報したのだろう、数分で警備隊が駆けつけた。


彼らは、俺の背後で手を振る聖女様の姿に一瞬驚くも、厄介ごとに巻き込まれるのを避けるかのように特に触れることなく状況を整理すると、男を引き連れ去って行った。


聖女様は興味深そうにロを開いた。


「ね!今のってロイス君の異能だよね?」


「さあ、どうでしょう」


適当にはぐらかすと彼女はむっとした様子を一瞬見せるも、最初から答えには期待していなかったのかすぐに表情を和らげた。


「まあいいや、異能の詮索はマナー違反だもんね。とにかく助かったよ、ありがと」


意外にもすぐに引き下がった聖女様に内心でほっと安心する。


「いえ、これも業務ですし。……邪魔が入りましたね。一度落ち着いたところに移動しませんか」


「それならうちにしようよ!そこなら二人きりでお話ができるし」


聖女様がウインクしながら意味ありげに微笑む。


("うち"って、聖協会じゃないか)


「……」


途端に強くなる周囲からの好奇や嫉妬の視線を浴びながら、思わず頭を抱えた。


「ところでロイス君。君はチェスが出来る人かい?」


「まあ、人並みには」


「ほんと!?私の趣味なんだ!是非相手をお願いしたいね!」


私は負けたことが無いんだ、最強なんだぞ~と鼻歌を歌いながら上機嫌に少し前を歩く。


彼女の姿を見て、思わず口元が緩む。


(案外、普通の少女と変わりないな)


「そういえば!」


不意に彼女が振り向く。


「今更だけど自己紹介してなかったね! ユディ=ポルガーノです。気軽にユディって呼んでも良いよ?」


「ではユディ様で」


「なんでよ~!」


ポカポカと鎧を叩いたと思えば、痛かったのだろう、涙目で手をさする聖女様をなだめて俺も名乗る。


「ロイス=ヴァルフリートです。王都騎士団副団長を務めております。こちらこそお好きに呼んでください」


「ではロイス様で」


「却下します」


「……」







数十分後、俺は聖教会の中庭でユディ様と向かい合うようにして座っていた。


白い石畳と低い生垣、中央には噴水。高い回廊に囲まれているせいか、街の喧騒は嘘のように遠い。


その噴水のそばに、小さな丸テーブルが置かれていた。

上には、見慣れた盤面――チェスボード。


「それでお願いの内容なんだけどね」


彼女が白い駒ーー”歩兵(ポーン)”を進め、俺の黒い駒を取る。


「生誕祭の日、ロイス君に護衛をお願いしたいんだ」


「……護衛、ですか」


俺は黒い駒を進めながら答える。


「上から許可が下りれば問題ありませんが、聖教会の方々は?」


(例のヴァイスシャッハは何をしているんだ?さっきの件といい、本当に存在するのか......?)


「当日はみんな忙しいんだってさー」


彼女は軽い調子で言い、白い駒ーー"(ルーク)"を動かす。


「聖女の護衛より優先することなんて普通ないよね?

 だからさ、屋台を見て回りたいの。バレないように変装するから、お願いっ」


彼女は慣れた手つきで、(ルーク)騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)女王(クイーン)、終いには(キング)までも動かす。


盤上はすでに白一色だった。

開始して数分、勝敗は誰の目にも明らかだった。


「……」


「……」


「ん~、正直微妙、かな」


眉をひそめて、ユディ様が残念そうにつぶやく。


「最初に言いましたよ。人並みだと」


「いや~、実力隠してる最強主人公を期待したんだけどな~」


「何の話をしてるんでしょうか」


軽口。俺は僅かに残った駒を動かそうとする。

だが次の瞬間、彼女の声色が変わった。


「……私はね。負けたことが無いんだ」


憂を帯びたような声色に、思わず手を止め、顔を上げた。


「相手の次の手が分かる。だから逆算するだけ」


白い駒を見つめる横顔は、

どこか人ではないものを思わせた。


「それは……果たして楽しいんでしょうか」


「楽しい、とは少し違うかな。思考の深さを確認してるんだ。

 この人はどこまで考えているかーとかね」


(……俺も、測られている)


そう感じて、喉が鳴った。


それまでのどこかからかうような雰囲気が消え、彼女は真剣な表情を見せる。


「ロイス君は丁寧だけど、心の鎧を着てる。

 内心では結構毒づいてるし、いざという時は反射で動けるタイプ。異能もそれに関連してる」


図星だった。


噴水から流れる水の音がやけに大きく響く。


ユディ様に流されるまま遊戯をしていたつもりが、いつの間にか全てを見透かされているような感覚を覚える。


いつの間にか気を許してしまっていたが、彼女もこの国の重鎮。


俺は目の前に座る女性が遙か格上の存在であることを改めて認識し、密かに意識を切り替えようとしてーーー


その瞬間、彼女が慌てたように両手を合わせた。


「あっちゃ~、ごめんね!悪い癖!」


空気が一気に緩む。


こちらの内心を察したのか、ユディ様はぱっと両手を合わせ、少し大げさなくらいに頭を下げた。


「ごめんね。昔から、つい踏み込みすぎちゃうところがあって……いつも爺に怒られるんだ。本当にごめんなさい」


しゅん、と肩を落とすその様子は年相応に幼く見える。

それを目にした途端、こちらが責めているような気分になってしまい、俺は慌てて首を振った。


「いえ、大丈夫ですよ。なんとも思ってません」


本心だった。

少なくとも、今さら腹を立てるほどのことではない。


「……ほんと?」


こちらを覗き込むようにして確認すると、ユディ様はすぐに顔を上げた。


「じゃあ、お詫びと言ってはなんだけど……私の秘密を一つ、教えてあげるね」


その瞬間だった。

さっきまでの柔らかい雰囲気が、すっと引く。


蒼い瞳に宿ったのは、はっきりとした意志。

聖女として人前に立つ時の顔だ。


「ロイス君は"選定者"って言葉、知ってる?」


「ええ。噂程度ですが」


「この世界ではね、遺伝なんかで生まれつき宿る力や、何かのきっかけで後から得る力を"異能"って呼ぶ」


指先で駒を弄びながら、彼女は淡々と続ける。


「さらに細かく分けると、魅了や成長補正なんかの永続的なもの、さっきの指弾とかの一時的なものの二種類がある」


「魔法と呼ばれる、魔素の応用であれば、努力すればほとんどの人が覚えられる。けど異能は十人に一人程度で、しかも複数持つことはない……ですよね」


「そのとおり。そこまでは、周知の事実」


一拍置いてから、ユディ様は言った。


「でもね、能力にはもう一種類あるんだ」


嫌な予感がした。僅かにアラームが鳴る。


「ある日突然、何者かに導かれるみたいに力に目覚めて、最初から自在に使いこなせる能力。それを”祝福”。使う人を”選定者”って呼ぶ」


「……」


「私の知る限りだと、帝国の若き王――“黄金帝”とか、ギルド唯一のS級探索者“正義執行”、あとは学園の"導師"がそれかな。三人とも、正直あんまり話が通じなくて苦手なんだけど」


さらっと、とんでもない名前が並べられた。


(おい、待て)


選定者についての情報は、ほとんど秘匿されているはずだ。

それを、こんな雑談の流れで出していい話ではない。


そして何より――


(……今の話のどこが、ユディ様の秘密なんだ?)


「っ!?まさか……」


嫌な想像が口をついて出る。


「うん」


ユディ様は、胸を張った。


「実はこの私、聖女も選定者なのである!」


突然の爆弾投下。


「そ、そんな国家機密を、そんな軽いノリで口にしないでください!」


思わず声を荒げてしまった。


「だって、色々迷惑かけたし……それに、どんな祝福かまでは話してないし、大丈夫だよ。……たぶん」


「たぶん、で済む問題じゃないでしょう……」


さすがに腹が立ち、内心で舌打ちする。


「ごめんってば!もうしないから、機嫌直して?」


その言葉と同時に、こちらの感情を正確に言い当てる視線。

本当に、油断ならない。


俺は隠すのを諦めて、ため息をついた。


「お、素のロイス君が見えてきた。私は嬉しいよ」


そう言ってから、わざとらしく咳払いをする。


「……というわけで、この私めの無礼を、どうかお許しくだされ」


「結局、あまり得した気分ではありませんが……まあ、元々それほど気にしていません」


「さっすがロイス君!いや、ロイス様!その大きな器に乾杯!」


そう言いながら、ユディ様は会話中ずっと手にしていた

“塔”の形をした白い駒を、俺の王の前へと置いた。


「チェックメイト。はい、残念でした!」


ぺろりと舌を出し、ウインク。


盤上と同時に、俺の敗北も確定した。


「……」


(まったく、反省する気がないだろ.......)


「私の勝ち」


笑顔でそう告げる彼女の瞳は、確かに俺を見ているはずなのに、

どこか――別の何かを見据えているように思えた。


「今日はありがとう!まあまあ楽しかったよ!それじゃロイス君、護衛の件、よろしくね」


親指を立ててそう言うと、

いつの間にか部屋の外で待っていた、メイド姿の従者と共に去っていく。


結局、盤上には、白だけが残された。


俺は椅子にもたれかかると、静かに息を吐いた。




少し間を置いてから、俺も中庭を後にした。


聖教会本部――通称“聖宮殿”。

いつもは外から眺めるだけだったこの建物に、まさか聖女本人に連れられて足を踏み入れることになるとは。運命というものは、つくづく皮肉だ。


(……はぁ)


無意識に、息が漏れた。

団長の件、誘拐事件、聖女との遭遇、襲撃、そして生誕祭の護衛依頼。

ここ数日の出来事を思い返すだけで、頭の奥が重くなる。


大きな窓から差し込む夕日を浴びながら、しばらく立ち止まり、座りっぱなしで固まった身体をゆっくりとほぐした。


(今日は早く帰ろう)


そう決めて、王宮と遜色ないほど豪奢な装飾が施された長い廊下を歩き出した、その時だった。


正面から、数人の一団が歩いてくる。


「おや、貴方は……」


その声に顔を上げ、先頭を歩く初老の男を認識した瞬間、俺は反射的に姿勢を正していた。


「"エルダー"様。お初にお目にかかります。王都騎士団副団長、ロイス=ヴァルフリートと申します」


今日二度目の敬礼だ。


エルダー=シャルマーク。


聖教会の最高責任者であり、国王とも古くからの付き合いがある国家の重鎮。

学園を首席で卒業。聖属性の使い手として知られ、あらゆる傷や病を癒すと噂されている。年齢を考えれば既に隠居していても不思議ではないが、今なお戦場に立つこともあるという人物だ。


「ええ、存じておりますよ」


穏やかな微笑みを浮かべながら、こちらを値踏みするように目を細める。


「貴方の上司からは、よく話を伺っています。それで……今日は、ここで何を?」


団長がどんな話をしているのか、気にならなかったと言えば嘘になる。

だが、余計なことは口にせず、俺は今日起きた一連の出来事を簡潔に説明した。


話を聞き終えたエルダー様は、額に手を当て、小さく息を吐く。


「まったく……。聖女様が、迷惑をかけたようで申し訳ない」


「いえ。エルダー様が謝られることではありません」


事実だ。

むしろ、問題は別のところにある。


「私の方からも、改めて護衛をお願いしたいのですが……どうでしょう。生誕祭当日は、どうにも人手が足りなくてね……」


「聖女様からも、その件は伺っています。一応、上には確認を取りますが……おそらく問題ないかと」


そう答えた瞬間だった。


エルダー様の目が、ほんの一瞬――鋭く光ったように見えた。


「……それはありがたい」


すぐに柔らかな笑みに戻り、続ける。


「後日、礼はきちんとさせていただきましょう。それでは、急ぎの用事がありますので、これで失礼」


そう言うと、彼は部下たちを引き連れて去っていった。


――違和感が、胸の奥に引っかかる。


そのまま通り過ぎるはずだった最後尾の男とすれ違った、その時。


ひらり、と。


大理石の床に、一枚の紙が落ちた。


「あ、すみません。落としましたよ――」


拾い上げようとして、俺の動きは止まった。


視界に入った文字を、脳が理解するのを拒んだ。



『被検体グループBの実験結果について』


前回の失敗を経て、今回は()()()()()を対象に実験を進めることになった。

投薬後、最初の一週間は身体に異常はなく、身体能力の向上が確認された。

しかし、十日経過した段階で被検体の様子が激変。

常時筋肉が肥大化し、肉が裂け、骨が露出。

全ての試験体が自我を喪失し、その場で暴走。

四日後――実験開始から丁度二週間で、全員の死亡を確認。


この結果から、性別による差異は無いと判断。

次回は対象年齢を引き上げ、実験を継続する。



「……は?」


声にならなかった。


紙を握る指に、無意識に力がこもる。

今すぐ握り潰してしまいそうになるのを、必死で堪えた。


「……なん、だ……これは……」


理解が追いつかず、その場に立ち尽くす。


(さっきの一団が……? いや、そんなはずは――)


はっとして顔を上げた。


「ッ……!」


だが、夕日が差し込む長い廊下には、既に誰の姿もなかった。


ただ、紙の重みだけが、異様に現実感をもって手に残っていた。




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