第99話:天の第6射、終焉の神託と三つの器
最後の宣告
空を覆い尽くしていた白光が、一瞬だけ止まりました。 静寂の中、アヴァロンの空に、かつて蓮をゴミのように捨てた教会の紋章が、血のように赤く浮かび上がります。 そこから響いたのは、慈悲の欠片もない、全能者の神託でした。
「これより、六柱の聖域粛清の六日間、その最後の一射を執行する。不純物を排し、世界を終わりなき滅菌へと導かん」
最後の一射。 神の理に基づいた6日間の蹂躙、その締めくくりです。 空の亀裂から現れたのは、これまでの光や歌とは比較にならない、巨大な「指」でした。 それは大陸一つを押し潰せるほどの、概念そのものの重圧。
三つの器の共鳴
「……最後だとよ。アレックス、アルマ。神様のお掃除も、これで打ち止めだ」
蓮は地面を蹴り、瓦礫の山から空を睨みつけました。 横では、黄金の輝きを失いかけたアレックスが、皮肉げに口角を上げました。
「ああ、聞こえたよ。僕の神都を壊した落とし前、神様に払わせてやる」
アルマが震える手を二人の肩に置きました。 彼女の瞳には、もはや迷いはありません。
「これが最後なら、私の救済の全てを、貴方たちの盾に変えます」
理外の極限防御
1、2、3……。 蓮は心臓の鼓動を数えました。 上空から、神の指がゆっくりと、しかし逃げ場のない速度でアヴァロンへと降りてきます。 大気が悲鳴を上げ、生き残っていたわずかな民たちが、恐怖で息を止めました。
「やるぞ」
アレックスが神都の全機能を停止させ、全てのエネルギーを最前線の障壁へと回しました。 アルマが魂を削り、アヴァロンを包み込む巨大な聖域を展開します。 そして蓮は、右腕の虚無を全開放しました。
良くなれ。 対象は、俺たちの前に広がる絶望。 定義するのは、消滅ではなく『不干渉』。
「虚空の壁よ。神の指だろうが何だろうが、俺たちの前では『存在しない』ことにしろ」
激突する意志
ドォォォォォォン!!
世界が反転したかのような衝撃が走りました。 視界が真っ白になり、内臓が口から飛び出しそうな圧力がかかります。 神の指と、三人の力が正面からぶつかり合ったのです。 これまでで一番、酷い威力でした。 アヴァロンの地下施設は粉々に砕け、地上の山々は消滅し、地形そのものが書き換えられていきました。
だが。
「……耐え、ろぉぉぉッ!」
蓮は咆哮しました。 右腕が、肩から千切れ飛ぶような激痛が走ります。 虚無の力が神の理と激突し、黒い稲妻が周囲を焼き払います。 アレックスの障壁が砕け、アルマが吐血して倒れました。 それでも、蓮は一歩も引きませんでした。
一撃。 ただの一撃で、世界が作り変えられるような暴力。 しかし、彼らが作った盾は、その中心で最後まで持ち堪えたのです。
焼け残った希望
どれだけの時間が経ったでしょうか。 目を開けると、そこには何もありませんでした。 帝都も、アヴァロンの街並みも。 見渡す限りの地平線が、ただの平らな荒野に変わっていました。
だが、蓮の背後には。 ユリアが、リサが、カイルが。 そして身を寄せ合って震えていた、一割にも満たないアヴァロンの生き残りたちが。 泥にまみれ、傷だらけになりながらも、生きていました。
死者は、数えるほどでした。 これまでの数日間に比べれば、犠牲は驚くほど少ない。 彼らが、神の最後の一撃を、確かに受け止めた証拠です。
……終わった、のか。
アレックスが荒い息をつきながら、仰向けに倒れました。 アルマも、蒼白な顔で空を見上げています。 天の門は閉じ、教会の紋章も消えていました。
100日目。 アヴァロンは滅びました。 民の大半を失い、築き上げた全てが灰になりました。 だが。
「……ここからだ」
蓮は、もはや感覚のなくなった右腕を強く握りしめました。
一の王。 二の神格。 三の器。




