第95話:天の第2射、慈悲なき福音
空が白く染まったまま、2日目の朝が来た。 1日目の光の雨が止んだ後、アヴァロンに満ちたのは、この世のものとは思えないほど美しい旋律だった。
天から降り注ぐ、数千の天使たちによる合唱。 それは福音であり、救済の歌声。 しかし、その調べが耳に届いた瞬間、生き残った民たちの瞳から生気が失われていった。
ああ……神様が、呼んでいる……。
1人の男が、瓦礫の中から立ち上がった。 彼の体は淡い光を放ち、足元から透き通り始めている。 それは苦痛に満ちた死ではなく、至上の幸福に包まれた溶解だった。
待て! 行くな! それを聞いてはいけない!
リサが叫び、男の腕を掴もうとする。 しかし、彼女の手は虚しく空を切った。 男の肉体はすでに物理的な存在であることをやめ、光の粒子となって空へと吸い込まれていった。
街の至る所で、同じ光景が繰り返される。 昨日、家族を失い絶望していた者ほど、その歌声に抗うことができなかった。 彼らは自ら進んで肉体を捨て、魂の安息を求めて天へと還っていく。
リサ、耳を塞げ! 本能で聞くな!
蓮の声が響く。 獣人であるリサは、人間よりも感覚が鋭い分、その歌声による精神汚染を受けやすかった。 彼女は耳を血が出るほど強く押さえ、地面に蹲って震えている。
蓮は右腕を振るい、虚空の波動で大気を震わせ、音波を打ち消そうと試みた。 しかし、その歌は鼓膜ではなく、魂に直接響く理そのものだった。 虚無の力で物理的な音を消せても、心の中に湧き上がる幸福感を消し去ることはできない。
1日目の虐殺で傷ついた人々の心に、神の慈悲という名の毒が深く入り込んでいく。 昼を過ぎる頃には、アヴァロンの人口はさらに減り、当初の50%にまで落ち込んでいた。
カイルは司令室の防音壁を最大出力にするが、効果はない。 アルマは涙を流しながら、消えていく魂のために鎮魂の祈りを捧げることしかできなかった。
なぜ……。私たちは、ただ生きたかっただけなのに……。
ユリアが剣を杖にして、消えていく民の背中を呆然と見送る。 神は力でねじ伏せるだけでなく、愛という名の武器で、人間の生きる意志そのものを摘み取ろうとしていた。
2日目が終わる頃、アヴァロンから活気は完全に消えた。 残されたのは、歌声に耐えきれず精神が壊れかけた者と、あまりの絶望に感情を失った者たちだけだった。




