第92話:玉座の簒奪と、神都新生
皇帝の終焉
謎の影が消え、静寂が戻ったのも束の間。 黄金の12枚翼を広げたアレックスは、蓮ではなく、背後にそびえ立つ帝都の中枢タワーへと視線を向けた。
皇帝陛下。貴方は以前、私にこう言いましたね。器とは、神を降ろすための椅子に過ぎないと。
アレックスの嘲笑が帝都全土に響き渡る。 タワーの最上階から、ゼノン皇帝の怒号が返ってきた。
アレックス……! 貴様、何をするつもりだ! 貴様に王権の器を制御する権限などないはずだ!
権限? そんなもの、奪えばいい。僕は傲慢ですから。
アレックスが黄金の剣をタワーに向けて一振りした。 光の一閃が、皇帝の座る玉座の間を両断する。 それと同時に、アレックスが奪った第一将の勝利の概念が発動し、皇帝の持つ王権の権能を強制的に書き換えた。
ぐ、がぁぁぁッ!? 私の王権が……私を拒絶するだと!?
皇帝ゼノンは、自らが操っていた機械の腕やパイプによって逆に拘束され、アレックスの元へと引きずり出された。 アレックスは無慈悲に皇帝の胸へと手を突き入れ、その心臓部に宿る王権の器を無理やり引き抜いた。
これで、僕が真の王だ。
都市規模の受肉
アレックスが王権の光を自らの胸へと埋め込むと、空が黄金色から禍々しい真鍮色へと変色した。 彼は自分の血を霧状にして帝都全土に撒き散らす。
さあ、目覚めなさい。僕の新しい身体。
ギギギギギ……ガシャンッ! 帝都ゼノン全体が、生き物のようにのたうち回り始めた。 数万のビルが組み変わり、地中のパイプラインが血管のように脈打つ。 第四将の献身(都市との融合)の能力を、アレックスが王権の力で極限まで増幅させたのだ。
地面がせり上がり、巨大な四肢が形成される。 超高層ビルが肩の装甲となり、広大な工場地帯が心臓部へと収束していく。 わずか数分で、帝都そのものが巨大な人型の石像――全高数千メートルに達する機械仕掛けの神へと変貌した。
神都ゴレム
これが僕の真の姿。神都アレキサンドリアだ!
巨大な神像の頭部、その額にあるクリスタルの中にアレックスが鎮座している。 彼の一呼吸ごとに、周囲の山々が震え、大気が圧縮される。 アヴァロン軍の兵士たちは、あまりのスケールの違いに戦意を喪失し、膝を突くしかなかった。
蓮様! あれはもう、個人の力でどうにかなる相手ではありません! カイルが叫ぶが、蓮は動じなかった。 彼は足元で瓦礫と化した帝都の残骸を見つめ、静かに右腕を掲げた。
デカければいいってもんじゃない。 中身が空っぽなら、それはただのデカいゴミだ。
蓮の虚空の右腕が、これまでにないほど深く、不気味な黒い脈動を始めた。
虚無の巨神
蓮はアヴァロン・ギアへと再び飛び乗り、機体の中枢へと自身の意識をダイブさせた。 今の蓮には、倒してきた大罪たちの力がある。
暴食、吸い尽くせ。 怠惰、止まることを許すな。 憤怒、全てを燃料に変えろ。
蓮の魔力がアヴァロン・ギアを浸食し、機体そのものが黒い泥のような物質へと溶け出していく。 それは、ギアという器を超えて、蓮の虚無そのものが具現化した姿。 漆黒の魔力が渦を巻き、アレックスの神都に対抗するように、影の巨人が立ち上がった。
神都と影。 光り輝く鋼鉄の巨神と、全てを飲み込む闇の巨神。 二つの巨大な存在が対峙しただけで、世界の均衡が崩れ、周囲の空間がガラスのように割れ始めた。
救済の予感
二つの神が衝突しようとしたその瞬間。 先ほどの謎の影が、戦場の片隅で再び呟いた。
いいね。王たちの殺し合い。 でも忘れないで。11番目の席……救済の器は、まだ誰の味方でもない。
影はフードの奥で目を細め、蓮の背後、誰もいない空間を見つめた。
アヴァロンの聖女様。君なら、どちらを救うかな?




