第91話:黄金の簒奪者と、嗤う第三の影
傲慢なる融合
ブラボー。素晴らしいショーだったよ。
瓦礫の山で拍手をする金髪の青年、勇者アレックス。 彼は蓮が倒した第一将勝利の残滓である光の玉を、まるでキャンディのように口に放り込み、噛み砕いた。
ごっくん。 ああ、美味い。勝利の味というのは格別だね。
アレックスの背中から、バキバキと音が鳴る。 黄金の光が噴出し、天使のような、しかし禍々しい12枚の翼が形成された。
僕は傲慢だ。だから努力はしない。他人が必死に育てた果実を、一番美味しい時に奪うだけさ。
アレックスが指を鳴らすと、周囲に浮遊していた他の将軍たちの遺灰――敗北した器たちの因子までもが、彼へと吸収されていく。
第四将の献身、第五将の真理、第六将の不滅……。全部、僕のものだ。
彼の身体が光り輝き、人の形を超えた神々しい姿へと変貌していく。 複数の神の座を強制的に統合した、最悪のキメラ神。
虚無対傲慢
ふざけた野郎だ。人の戦いをビュッフェか何かと勘違いしてやがる。
蓮はアヴァロン・ギアから飛び降り、生身でアレックスと対峙した。 巨大ロボットなど、この領域の戦いでは意味をなさない。
蓮、君には感謝しているよ。君が彼らを弱らせ、殺してくれたおかげで、僕は手を汚さずに最強になれた。
アレックスが黄金の剣を生成する。その刀身には、あらゆる物理法則を無視する勝利と、全てを焼き尽くす真理の炎が宿っている。
お礼に、君のその虚無も貰ってあげるよ。そうすれば僕は、完全なる唯一神になれる。
いらないよ、そんな席。
蓮の右腕が漆黒に染まる。
神様ごっこは終わりだ。地獄へ落ちろ、勇者様。
二人が衝突した。 黄金の光と漆黒の闇がぶつかり合い、帝都の上空に巨大な次元の亀裂が走る。 衝撃波だけで、周囲のビル群が砂の城のように崩れ去っていく。
嗤う第三者
その、世界が悲鳴を上げるような激闘の最中だった。
ふたりの魔力がぶつかり合い、空間が裂けて生まれた虚数空間の狭間。 そこに、ポツンと一人の影が座っていた。
ボロボロの灰色のローブを纏い、深くフードを被っているため、その顔は全く見えない。 ただ、その口元だけが、三日月のように裂けて笑っているのが見えた。
おやおや。随分と賑やかだねぇ。
影は、蓮とアレックスが放った、世界を数回滅ぼせるほどの余剰エネルギーの奔流の中にいながら、まるでそよ風に吹かれているかのようにリラックスして足を組んでいた。
危ないなぁ。あんまり暴れると、お皿が割れちゃうよ?
影が、ヒラヒラと手を振る。 その直後、蓮とアレックスの間に発生していた次元崩壊のエネルギー球が、パチンという軽い音と共に、シャボン玉のように消滅した。
深淵の介入
なっ……!? ……!?
蓮とアレックス、双方が同時に動きを止め、その影を見た。 攻撃が相殺されたのではない。 消されたのでもない。 最初からなかったことにされたような、奇妙な違和感。
誰だ、貴様は。
アレックスが不快そうに黄金の剣を向ける。 アヴァロン軍の誰かでも、帝国の兵でもない。 敵意もなければ、味方でもない。 ただそこにいるだけで、背筋が凍るような圧倒的な異物感。
影は、フードの奥でクスクスと笑った。
気にしないで。僕はただの観客。あるいは、後片付け係かな。
影が指先で、空中に浮かぶ見えない何かを摘む動作をした。
まだ熟してないね。11の席は埋まったけど、肝心の『王』がまだ足りない。
王だと? 僕が王だ!
アレックスが激昂し、その影に向けて必殺の裁定の一撃を放った。 視認しただけで対象を消滅させる神の権能。
だが、影は動かなかった。 攻撃が当たる直前、影の姿がノイズのように揺らぎ、霧散した。
焦っちゃダメだよ、傲慢くん。君じゃまだ、器が小さい。
声だけが、戦場全体に響き渡る。
続けなよ。どちらかが死んで、ただ一人の王が残るまで。その時また会いに行こう。――救済の時は近いよ。
気配が完全に消えた。 あの一瞬の介入で、蓮とアレックスの必殺技を無効化し、嘲笑って消えた謎の存在。
再開のゴング
……チッ。水を差されたな。
蓮は舌打ちをした。 今の奴、ただの野次馬じゃない。 蓮の虚無とも、アレックスの全能とも違う、もっと根源的なシステムの管理者じみた気配。
11の器、か。どうやらこのゲーム、僕らが思っているより底が深いらしい。
蓮は右腕を強く握り直した。
だが、やることは変わらない。まずは目の前のゴミを掃除するだけだ。
アレックスもまた、不快感を露わにしながらも、再び蓮に向き直った。
同感だね。あんな薄汚いネズミ、僕が神になった後に駆除してやる。まずは君からだ、蓮!




