第9話:王都の噂と高まる熱、瑛太の逆恨み
騒然とする王都 古代遺跡の調査を成功させ、莫大な報酬と秘宝を携えて王都近くの街に戻った蓮たち。王都では、佐野瑛太(光の勇者)の起こした外交問題で大騒ぎになっていた。
瑛太は隣国使節団のパーティーで泥酔し、自分の失敗を「劣等民族の使節団のせいで運気が下がった」と責任転嫁。これにより国境付近では緊張が高まり、戦争一歩手前の状況に陥っていた。
そんな中、『エンハンサーズ』の偉業が王都に届いた。
「聞いたか?あのEランクのパーティーが、光の勇者が攻略を渋った古代遺跡を制圧したそうだ!」 「しかも、ユリア様を助け、外交問題で大損害を被った王国の経済を、秘宝の力で救ったとか!」
王都の市民や貴族の間で、蓮への評価は鰻登りだった。彼らは、「コネと権威で王座に座る光の勇者」と、「真の実力で世界を救う底辺の英雄」という対比構造を明確に認識し始めていた。
チートの熱と私的な時間 宿に戻った蓮たちは、長い遺跡調査の疲れを癒やすべく、それぞれ部屋で過ごしていた。
フィーネが、自分の部屋で一人、ぼんやりと天井を見つめていた。
(最近、魔力が増幅されて、治癒能力が上がったのは嬉しいけれど……)
彼女の体は、蓮の【全能化】によって全身の細胞が活性化された状態だ。少しの刺激にも過剰に反応し、肌は常に熱を帯びている。
フィーネは自分の肌に触れただけで、背筋がゾクリとするような感覚を覚えた。そして、その原因が「神崎様の隣にいる時」に最も強まることを知っていた。
「はぁ……。神崎様が、こんな副作用まで生み出すなんて……」
その時、壁を隔てた隣の部屋から、微かなため息が聞こえてきた。リサの部屋だ。
リサもまた、自分の部屋で剣の素振りを止め、荒い息を吐いていた。
「クソッ、体が熱い……!敏捷性が上がったのはいいけど、剣を振るたびに、全身の感覚が、まるで初めて体を動かすように敏感になって……!」
リサは普段から露出度の高い戦闘服を着ているが、その薄い生地が肌を擦るだけでも、今まで感じたことのない強い刺激を感じていた。彼女の獣人としての感覚も、【全能化】によって極限まで研ぎ澄まされていた。
「神崎め……。あの優しそうな顔をして、私の身体をこんな……イカれた状態にしやがって……!」
彼女たちは、蓮のチートがもたらした「魅惑の副次効果」に、戸惑いと、止められない熱を抱えていた。
ユリアの動揺と確認 翌朝。朝食の席で、ユリアが疲労の色を隠せない顔で現れた。
「ユリア殿、顔色が優れませんが、無理をしていませんか?」蓮が心配そうに尋ねる。
ユリアは、蓮の心配の言葉にさえ、動揺してしまう。昨夜、彼女もまた身体の鋭敏化によって、一睡もできなかったのだ。騎士としての鍛え抜かれた体幹ですら、【全能化】による『感覚強化』には抗えなかった。
「だ、大丈夫です。ただ、その……。神崎殿。あなたと行動を共にするようになってから、私の集中力が、異常に高まっています」
ユリアは「集中力」という言葉を選んだが、彼女の顔は、「性的な感性」もまた鋭敏になったことに気づいている証拠だった。
「それは僕の【全能化】の効果です。全ては、あなたの騎士としての『使命』を達成するためですよ」蓮はあくまで冷静に、ユリアの復讐心と使命感を肯定した。
蓮のその言葉は、ユリアを「自分はこの男に力を貸してもらっているだけだ」という理性的な立場に立たせようとする。しかし、蓮の隣にいるだけで感じる魅了の波動と、敏感になった体は、彼女の理性を崩壊寸前まで追い込んでいた。
光の勇者の逆恨み その頃、王都の豪華な宿舎に押し込められていた佐野瑛太は、怒りで狂乱していた。
「クソッ!あのEランクのゴミが!僕の獲物だけでなく、王国の名誉まで手に入れやがって!しかも、リサや、騎士団長の娘まであの野郎の側にいるだと!?」
瑛太は、自分の失態の責任を、全て蓮に転嫁していた。
「本来、僕が手に入れるはずだった名誉と富を、あの底辺が盗んだんだ!あのEランクのゴミが、僕の輝きを奪ったんだ!」
瑛太のSSランクスキル【神の光】は、彼の傲慢な精神と結びつき、周囲への猜疑心と憎悪を増幅させていた。彼は、蓮こそが自分を貶める真の敵だと、一方的に決めつけた。
「いいだろう。僕が自ら、あのゴミ拾いパーティーを叩き潰してやる!僕の力は、あんなEランクのチートごときに負けるはずがない!」
瑛太は、己の無能さには気づかず、光の勇者という権威を振りかざし、蓮への逆恨みと復讐心を燃え上がらせた。彼は、蓮を叩き潰すための、次の愚かな計画を実行に移すのだった。
そして、その頃。蓮の部屋のドアが、ノックされた。
「神崎様、少しよろしいでしょうか。その……治癒魔法について、ご相談が……」




