第84話:十一の神座と、亡き友への設計図
解析された神話
パラガスの葬儀は、雨の中で行われた。 アヴァロンの民は涙を流し、蓮は無言でその棺に土をかけた。
葬儀の後、司令室。 カイルが包帯だらけの姿で、パラガスが死の直前まで守り抜いた『大帳簿』と、第七将の残骸から回収したメモリチップを解析していた。
「……蓮様。分かりました。奴ら『八神将』の正体と、ゼノン帝国が目指している儀式の全貌が」
カイルがホログラムを展開する。 そこに映し出されたのは、帝国が崇拝する聖典に記された、世界の理を構成する**11人の神格者(神座)**のリストだった。
「帝国は、この世界を11の概念で再定義しようとしています。そのために必要なのが、それぞれの概念に適合する『器』です」
二文字の呪い
「11人の器……」
蓮が呟く。カイルがリストを表示した。
「はい。彼らは人間を改造し、あるいは適合者を探し出し、以下の『異名』を持つ神座に就かせようとしています」
カイルが読み上げる。
【上位神座】
『善思』 …… 善き思考を司る。
『真理』 …… 火と正義を司る。
『王権』 …… 金属と統治を司る。(※ゼノン皇帝が適合と推定)
『献身』 …… 大地と慈愛を司る。
『完全』 …… 水と健全を司る。(※第七将が失敗・消滅)
『不滅』 …… 植物と永続を司る。
【補助神座】 7. 『契約』 …… 光と約束を司る。 8. 『勝利』 …… 戦いと征服を司る。(※第一将『牙』が適合と推定) 9. 『清浄』 …… 浄化と豊穣を司る。 10. 『裁定』 …… 審判と聴聞を司る。
「……これで10人だ。最後の一人は?」
蓮が問うと、カイルは一瞬言い淀み、そして震える声で告げた。
「11番目の座。それは、この聖なるシステムに唯一対抗しうる、破壊と深淵の象徴……『虚無』。それが、蓮様。貴方の座です」
破壊者の自覚
「なるほどな」
蓮は、自身の右腕を見つめた。
「帝国は『王権』によって世界を秩序で固めようとしている。そのシステムにおいて、僕は全てを無に帰すバグ、あるいはリセットボタンというわけか」
あの第七将が言っていた「完全」も、このリストにある座の一つだったのだ。無理やり適合させようとして失敗し、ただの化け物になった成れの果て。
「ふざけた話だ。勝手に役を与えて、勝手に殺しに来る」
蓮の拳から、黒い血のような魔力が滴り落ちる。
「上等だ。皇帝ゼノンは『王権』を名乗り、地上の支配者気取りか。なら、僕の『虚無』で、その錆びついた王冠ごと粉砕してやる」
復讐の設計図
「カイル。パラガスの弔い合戦だ。僕たちも『兵器』を作るぞ」
蓮は、パラガスの遺品である帳簿を開いた。そこには、アヴァロンの全資産と、世界中の裏ルートから調達可能な資材のリストが記されていた。
「相手は機械化された帝国軍と、神の力を模倣した将軍たちだ。生半可な魔法じゃ通じない。だから、僕たちが倒してきた『大罪』の力を全て結集する」
蓮は、カイルに一枚の設計図を渡した。それは蓮が前世の知識と、アヴァロンの超技術を融合させて構想していた、対・国家級殲滅兵器のラフスケッチだった。
「これは……! 本気ですか蓮様!? これを完成させるには、『強欲』の資金、『怠惰』の動力、『暴食』の処理能力……アヴァロンの機能全てを一つの機体に詰め込む必要があります!」
「ああ。総力戦だ」
蓮はニヤリと笑った。その笑顔は、かつての少年のような無邪気なものではなく、魔王の如き凄味を帯びていた。
「『王権』に対抗するには、王の武器が必要だ。名付けて――機動要塞『アヴァロン・ギア』」
出撃前夜
数日後。
アヴァロンの広場に、全軍が集結していた。 ユリア、リサ、セラフィナ、フィーネ。そして『暴食』のグラや、動力炉となったドルミンの力を借りて武装した兵士たち。
蓮は、パラガスの墓標の前に立ち、西の空を指差した。
「行こう。神話の時代は終わりだ」
蓮の背後に、建造中の『アヴァロン・ギア』の一部――巨大な黒い影がそびえ立つ。
「11の椅子取りゲーム? 知ったことか。僕が全員椅子から蹴り落として、この世界を『更地』にしてやる」
蓮の右腕が、共鳴音を上げる。 それは、遠く離れた帝都に座す『王権』の器、ゼノン皇帝への宣戦布告だった。
「パラガス、見ていろ。お前が愛したこの国が、世界最強であることを証明してくる」
アヴァロン軍、進撃開始。 目指すは西方、機甲帝国ゼノン。




