第50話:異界の愚者と、蹂躙される遊戯
1. 勇者様のVIPルーム
王都防衛ラインの遥か後方、安全圏に設営された巨大な天幕。そこは、泥と血にまみれた最前線とは無縁の、別世界のような空間だった。
「おい、ワインがぬるいぞ。氷魔法で冷やせと言っただろうが」
S級冒険者パーティ『スターダスト』のリーダー、カイトが、クリスタルグラスを床に叩きつけた。
「も、申し訳ありません、勇者様……!」
給仕をしていた王国の近衛兵――本来なら国を守るエリート騎士が、土下座をして震えている。
「使えねーな、ここのNPCは。AIがポンコツなんじゃないか?」
カイトは舌打ちをし、土下座している騎士の頭を、革靴のつま先で思い切り蹴り飛ばした。
ゴシャッ、という鈍い音が響き、騎士が鼻血を噴いて転がる。
「あーあ、床が汚れた。おい、お前が舐めて掃除しろよ」
カイトは下卑た笑い声を上げながら、ソファーにふんぞり返った。彼らにとって、この世界の人間に人権など存在しない。自分たちを楽しませるための「舞台装置」でしかなかった。
2. 玩具にされた令嬢
天幕の奥では、さらに惨い光景が広がっていた。
パーティメンバーのショウとレンジが、一人の少女を囲んで遊んでいた。彼女は、反乱軍討伐の契約金の一部として、貴族から「差し出された」令嬢だった。
彼女のドレスは無惨に引き裂かれ、肌にはいくつもの火傷や打撲の跡があった。
「ねえ、もっと面白い声で鳴いてよ。俺の『魅了スキル』がかかってるんだから、嫌がっても身体は正直だろ?」
ショウが、少女の首輪に繋がれた鎖を乱暴に引く。
「ひぅっ……お、お許しを……家に、帰して……」
少女は虚ろな瞳で懇願するが、それが逆に彼らの嗜虐心を煽った。
「帰す? 無理無理。お前はもう俺たちの『所有アイテム』だから。壊れるまで使い倒して、飽きたらスラムにでも捨ててやるよ」
レンジが少女の髪を掴み、無理やり顔を上げさせて酒を流し込む。
「ほら飲めよ。高貴な姫様が、異界の勇者様の慰み者になれるんだ。光栄に思えよな」
彼らは笑いながら、少女の尊厳を徹底的に踏みにじっていた。そこには、同じ人間に対する敬意など欠片もない。あるのは、圧倒的な強者が弱者をいたぶる、歪んだ優越感だけだった。
3. 生きた標的
天幕の外、高台の縁では、魔法使いのダイキが「暇つぶし」をしていた。
彼は、眼下に行進させられている「人間の盾」――属国から徴兵された無抵抗な民間人たちに向けて、指先から小さな魔力弾を放っていた。
「よっと。……あ、外れた。偏差撃ちムズいな」
パァン! と音がして、隊列の中の一人の老人が頭を吹き飛ばされて倒れる。
「あーあ、また殺しちゃった。ま、いっか。どうせあいつら、数合わせのモブだし」
ダイキはあくびを噛み殺しながら、次は怯えて泣いている子供に狙いを定めた。
「次はヘッドショット狙うか。ポイント入んねーかな」
彼らにとって、殺人はゲームのスコア稼ぎと同義だった。痛みも、悲しみも、命の重さも、彼らの「ステータス画面」には表示されない情報だった。
唯一の女性メンバーであるアイリが、青ざめた顔でその様子を見ていた。
「ねえ……もうやめない? 依頼は反乱軍を倒すことでしょ? 無関係な人を殺す必要なんて……」
「あ? アイリ、お前まだそんなこと言ってんの?」
カイトが背後から現れ、アイリの肩を強く抱いた。
「いいか、俺たちは『特別』なんだよ。神様が俺たちにチートを与えて、この世界に呼んだ。つまり、この世界は俺たちのために用意された『遊び場』なんだよ」
カイトは、眼下に広がる戦場を指差した。
「住民はNPC。敵はモンスター。俺たちが何をしようが、誰にも文句は言わせねえ。それが『勇者』の特権だろ?」
4. 虐殺の開演
反乱軍が射程距離に入ったという報告が入った。
カイトたちは、面倒くさそうに、しかし獲物を見つけた獣のような目で立ち上がった。
「さて、メインイベントと行きますか」
「あの大量の民間人もろとも、焼き払っちゃっていいんだよな?」
「おう。王様からも『許可』は出てる。『反乱軍に協力した裏切り者ごと処分してくれ』だってさ。国自体が腐ってるから、俺たちが何しても正義になるってわけ」
五人は高台の最前列に並んだ。
彼らの眼下には、数千人の民間人と、その後ろに続く反乱軍がいる。
「見ろよあの数。魔法一発で数千キル確定だぜ」
「経験値効率最高じゃん。レベルキャップ解放されんじゃね?」
カイトが、極大魔法の詠唱を始める準備に入った。
その顔には、これから数千の命を奪うことへの躊躇いなど微塵もない。あるのは、これから起こる派手なエフェクトと、大量の経験値を期待する、無邪気で残酷な笑みだけだった。
「さあ、パーティの時間だ。ゴミども、俺たちの糧になれることを感謝して死ねよ」
異界の暴君たちは、世界最悪の虐殺を、ただの「ゲーム」として開始しようとしていた。




