第5話:獣人の覚醒と無限の身体強化
強化の実験 街外れの、人目につかない森の中で、蓮、フィーネ、リサの三人は集まっていた。
「リサさん、これからあなたの身体能力を限界まで引き上げます。フィーネさんのスキルが書き換わったように、あなたの『剣技』や『敏捷性』も、規格外のレベルに到達するはずです」
リサは緊張した面持ちで頷いた。
「わかったわ。あんたの力はフィーネを見て信じられる。けど、覚悟はしておく」
リサは元いたSランクパーティーでは、その獣人族特有の素早さや身体能力が評価されていたが、人間族のエリートたちからは常に「ただの動物的本能」と見下されていた。
蓮はリサの肩に手をかざし、集中した。
「行きます。【全能化】」
《スキル【全能化】を発動。対象:『リサの身体』の『筋力』を向上させます。効果:0.1%》 《発動。対象:『リサの身体』の『敏捷性』を向上させます。効果:0.1%》
蓮は、フィーネの時と同様に、リサの『基礎能力』に対して、魔力を惜しみなく注ぎ込み、連続で強化を繰り返した。
身体の変貌 リサの体内で、熱狂的な変化が起こり始めた。
「うっ……これは……体が燃えているみたい……!」
彼女の筋肉が、細胞レベルで組み替えられていく感覚。通常ではありえない速さで、彼女の持つ潜在能力が引き出され、さらにその上へと押し上げられていく。
フィーネが心配そうに見守る。
「リサさん、無理しないで!」
「大丈夫……!これ、は……力だ!私を蔑んだ奴らが、決して理解できなかった、私自身の真の力が……湧き出てくる!」
リサの黒い獣耳が微かに光を放ち、尻尾がピンと立った。彼女の身体能力が、常人のそれを遥かに超越し、『勇者』と称される人間たちの基準すらも無視して突き進んでいることを示していた。
数時間後、蓮は魔力タンクが空になる寸前で強化を停止した。
リサは深く呼吸をし、自らの変化を確かめるように立ち上がった。
「はぁ……はぁ……信じられない。体が、翼が生えたように軽い……!地面を蹴るだけで、空気を切り裂くような速度が出るわ!」
リサは持っていた剣を構え、近くの巨木に向かって一閃した。
ズバンッ!
空気を切り裂く音と共に、巨木は音もなく、真横に一筋の斬撃の痕を刻まれ、ゆっくりと上部が滑り落ちた。
これは、単なる剣の切れ味ではない。極限まで強化されたリサの筋力と敏捷性、そしてスキル化された『剣技』が融合した結果だ。
《スキル【獣王剣舞】が覚醒しました。》
リサのEランクスキルは元々存在しなかったが、蓮の【全能化】によって、彼女の潜在的な戦闘能力が【獣王剣舞】というSSランクの固有スキルとして具現化したのだ。
「【全能化】は、『可能性』を強化するスキルだったのですね」
蓮は確信した。
中級ダンジョン攻略 三人は、王都で光の勇者が手を焼いていると噂の「深淵の地下迷宮」という中級ダンジョンへ挑むことにした。
内部は、強力なロックゴーレムやシャドウウルフなど、Cランク冒険者では手に負えない魔物で溢れていた。
「リサさん、行けますか?」
「任せて!これが私の本気の力よ!」
リサは電光石火の如く駆け出した。
ロックゴーレムが重い拳を振り下ろすより早く、リサは残像を残しながらゴーレムの側面に回り込み、剣を振るう。
ザシュ!ザシュ!
岩石でできたゴーレムの体が、豆腐のように切り刻まれ、バラバラと崩れ落ちた。
「すごすぎる……!まるでSSランクの冒険者みたいです!」フィーネが驚く。
蓮は、その圧倒的な無双ぶりを見て満足そうに頷いた。
「彼女の力は、光の勇者のパーティーにいた頃とは比べ物になりません。僕の【全能化】は、本来の才能を解放する鍵ですから」
そして、フィーネの【治癒の聖域】が、蓮とリサの僅かな疲労すら瞬時に回復させる。
最強の盾と最強の回復を得た蓮は、もはや木の枝一本で、ダンジョンを散歩するかのように進んでいった。
王都からの追跡者 ダンジョン深部で、蓮は一つの紙片を拾った。それは、このダンジョン攻略に関する王都の指令書だった。
【光の勇者(佐野瑛太)に託す指令:速やかに迷宮を攻略し、資金と名誉を回復せよ。失敗は許されない】
どうやら、瑛太はゴブリンロード討伐失敗の後、失った名誉を取り戻すために、この中級ダンジョン攻略を王から命じられていたようだ。
蓮は鼻で笑った。
「彼が来る前に、僕たちが全て攻略させてもらいましょう」
その指令書には、この迷宮の最深部に、「闇騎士団」という、過去に王都を裏切った騎士団の残党が潜んでいる可能性も記されていた。
(闇騎士団……元・騎士団長の娘が、光の勇者に復讐を誓っているという噂もあったな)
蓮は、瑛太が過去に生み出した負の遺産が、この迷宮に集約していることを察した。
その時、洞窟の奥から、複数の足音と、重厚な鎧の擦れる音が近づいてきた。
蓮は木の枝を構える。彼の視線の先にいたのは、全身黒い鎧に身を包んだ、訓練された騎士たちだった。
その騎士団のリーダーは、冷たい瞳で蓮たちを睨みつけた。
「貴様らが、この迷宮に侵入した冒険者か。我々は、光の勇者様に代わり、ここを制圧する。部外者は立ち去れ」
「光の勇者、ですか」
蓮は嘲笑を浮かべた。
「悪いですが、ここにあるお宝も、この迷宮の成果も、ゴミを良くする能力を持つ僕たちが全ていただきますよ」




