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「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生/大場 雷怒
新章 第四部「高次干渉編」

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第114話:逃げ場なし

1、崩落するセグメント

世界はもはや、地獄ですらなかった。

そこにあるのは、苦痛や悲鳴さえもが「解釈不能なエラー」として処理される、絶対的な虚無の先行公開だった。


空の半分を覆っていた「白」の領域は、もはや静止した壁ではない。それは秒速数キロメートルの速さで現実のテクスチャを剥ぎ取り、残された半分を「黒」いノイズへと追い詰めている。ユウマの視界に入るすべてが、ワイヤーフレームに分解され、次の瞬間にはその線さえも断線し、色のない粒子となって霧散していく。


「……ハァ、……、……っ」


ユウマは、存在しない「地面」の輪郭を必死に踏みしめていた。

右腕を失った肩の断面は、情報の過負荷によって青白いスパークを撒き散らしている。肉体というハードウェアが、次元そのものの消滅デリートに耐えきれず、絶え間なく存在の剥離を繰り返しているのだ。脳内では、かつて学んだあらゆる工学的な知識が、この異常事態を解析しようと火花を散らしている。


「お兄ちゃん、……ルナ、もう、……なにも聞こえないよ……」


ルナの声が、ノイズの混じった無線のように途切れ途切れに響く。

彼女が繋ぎ止めていた村人たちの「意志」のネットワークも、外側からの圧倒的な消去圧力によって、一本、また一本と強制切断されていた。ガロや、老婆や、子供たち。彼らは消えたのではない。この世界の「ディレクトリ」から、その存在自体が根こそぎ抹消されているのだ。


2、根源階層の「管理者」

その時、白と黒の境界線上に、一つの巨大な「眼」が浮かび上がった。

それは、これまで対峙してきたどの観測者とも異なる。感情の微塵もなく、焦りも戸惑いも持たない。ただ、宇宙というシステムの最下層で、淡々と「不要なプロセス」を終了させるための実行権限そのものが具現化したような、圧倒的な無機質さ。


上位階層の「真の管理者」が、ついにこの末端セクターの直接処理を開始した。


SYSTEM_NOTICE: Sector_C-127 designated as "Dead_Process".

REASON: Cumulative instability exceeding threshold.

ACTION: Total Garbage Collection in progress.


空間そのものが震え、無音の咆哮がユウマの脳を直接揺さぶる。


「……ハッ、……ガハッ!!」


ユウマは左手のスパナを、実体のない空間へと突き立てた。

指先から感覚が消えていく。自分が人間であることを証明するあらゆるデータが、上位の「消しゴム」によって1ビットずつ削り取られていく恐怖。


「……待て、……っ!! まだ、……俺たちは、……ここに……!!」


「無意味な要求です、異常値Iteration_8192」


空間が、そう答えた。

それは「声」ではない。ユウマの認識システムに直接書き込まれる、絶対的な確定事項。


「このセクターはもはや修復不可能です。因果の連鎖は断ち切られ、物理定数は瓦解し、生命という名のノイズがシステムの安定を恒久的に脅かしている。当領域を保持し続けることは、全宇宙という巨大なメモリの浪費に他なりません」


3、安定という名の処刑

ユウマは、消えゆく「黒」のノイズの中に、かろうじて留まっているルナの身体を抱き寄せた。彼女の輪郭は既に透明に近く、触れている感触さえもが「数値的な不整合」として拒絶されそうになっている。


「……ハァ、……お前たちの言うことは、……いつだって……効率と……安定……それだけか」


ユウマは、血に濡れた顔を上げ、天に浮かぶ巨大な「眼」を睨みつけた。

彼の銀色の瞳には、絶望ではなく、煮え滾るような怒りが宿っていた。


「……この世界ごと消す気か。 そこで笑ってた奴らも、……泣いてた奴らも、……全部……ただの『ゴミ(ガーベジ)』として……一括消去する気かよ!!」


「安定しないためです」


管理者の返答は、あまりにも簡潔で、それゆえに反論を許さない冷酷さを孕んでいた。


「一つの細胞がガン化すれば、組織全体を守るために切除される。それと同様の論理です。当セクターで発生した『主観的観測の暴走』は、周囲のセグメントへも波及し始めています。放置すれば、上位階層の論理構造さえもが不純なノイズに汚染される。故に、ここにあるすべての情報は、0へと還元されなければなりません」


管理者の言葉と共に、白い消去範囲が加速した。

地平線の彼方にあったはずの白い壁が、今や数メートル先にまで迫っている。

逃げ場はない。

この世界は隔離されたパーティションであり、外へと続くすべてのポートは既に物理的に遮断されている。


4、異常値の「最終提案」

「……お兄ちゃん、……ルナ、……消えたくないよ。……みんなとの……思い出、……まだ、……半分も……物語にしてないのに……」


ルナの目から、情報の雫がこぼれ落ちる。それは地面に触れる前に、白い虚無に呑み込まれて消える。


ユウマは、左手に握ったスパナを、自らの胸元へと突き立てた。

それは自死のためではない。

彼の中に眠る「過去8192回分の全死のログ」……そのすべてを一つの圧縮データとして、自身の自我回路に無理やりマウントするためだ。


「……安定、……安定か。……お前たちがそんなに……『綺麗なプログラム』が……好きなら……」


ユウマの身体から、どす黒い漆黒のノイズが爆発的に噴出した。

それは、過去のすべての「失敗」と「絶望」が濃縮された、最悪の不純物。

上位階層がもっとも嫌悪し、もっとも排除したいと願う、「非論理的な執念」の塊。


「……この『汚れ(バグ)』を、……お前たちのシステム全体に……ブチ撒けてやるよ!!」


「……何をしている。……その行為は、あなたの存在そのものを……情報の熱死へと……」


管理者の「眼」が、初めて微かに歪んだ。


「……俺を消したいなら、……消してみろ。……だが、……俺を消す瞬間、……この8192回分の全呪いが、……お前たちの『綺麗な回廊』に……バックアップとして……強制的に流し込まれるように……自分自身をパッチ化した!!」


ユウマは、血を吐きながら笑った。

かつて(エンジニア)として、システムの脆弱性を突くことに心血を注いだあの頃のように。

彼は自分自身を、消去不可能な「トロイの木馬」へと改造したのだ。


「俺を消せば、システムが壊れる。……消さなければ、このバグまみれの世界が……残り続ける。……さあ、……どっちを選ぶ? ……上位の『安定』とやらが、……聞いて呆れるぜ!!」


5、閉ざされる回路

白い虚無の浸食が、ピタリと止まった。

ユウマの足元、わずか数センチの場所で、世界を消し去る力が、計算不能なパラドックスに陥り、フリーズしている。


管理者の「眼」が、激しく明滅する。

消去すれば、自分たちの基幹システムが汚染される。

放置すれば、異常値が宇宙を蝕む。

どちらを選んでも、彼らが信奉する「完璧な安定」は失われる。


「……個体名、ユウマ。……あなたは、……どこまで……醜悪に……生き汚いのだ……」


「……当たり前だ。……人間だからな」


ユウマは、透けかけたルナの身体を、残された左腕で強く抱きしめた。

その温もりだけは、どんな高次元の論理によっても、0へと還すことはできない。


逃げ場のない白い部屋。

そこで、一人の男と一人の少女が、宇宙の理を人質に、終わりのない対峙を続けていた。


不自由な全能を捨て、不完全な自由を。

彼らの戦いは、ついに「世界を消すか、自分たちが残るか」という、究極のデバッグへと突入した。


外側の「白」は、まだそこにある。

だが、ユウマが放つ「黒」い執念は、その白い闇をじわじわと、泥の色で塗り潰し始めていた。


不完全であることを誇れ。

間違いであることを愛せ。

そして、異常値として、この虚無の果てに居座り続けろ。


彼らの鼓動が、静止した白い世界の中で、

新しい時間を、1秒ずつ、力強く刻み続けているのだから。


6、意志の残響:新生の定数(追記)

集落の広場があった場所には、いまや何もない。

だが、ユウマの足元だけは、泥の感触が残っている。

それは、彼が「ここは泥だ」と、宇宙の論理を上書きし続けているからだ。

「……お兄ちゃん、……ルナ、……見えるよ。……みんなの……声が、……この黒いノイズの中に、……まだ、……生きてる……」

ルナが、空虚な空間に耳を澄ませる。

消去されたはずのデータが、ユウマという「バグ」の中に一時退避され、再構成の時を待っている。

支配なき観測。

正解なき選択。

神のいない世界で、人間が初めて手にした、自分たち自身の「逃げ場」。

物語は、まだ終わらない。

彼らがこの白い監獄を、自分たちの物語で満たしていく限り。

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