第47話:勝者の驕りと、規律
1. 卑怯者の逃走
戦況は決した。蓮の『虚空の右腕』による概念破壊と、パラガス率いる革命軍の射撃により、教会の浄化部隊は壊滅状態にあった。
「終わりです、ガラルド隊長」
セラフィナが、師であった男を瓦礫の壁際まで追い詰める。彼女の剣先は、ガラルドの喉元に向けられていた。
「くっ……! 落ちこぼれの小娘が、私を見下ろすか!」
ガラルドは悔しげに顔を歪めたが、次の瞬間、ニヤリと卑しい笑みを浮かべた。
「だが、私は『システム』を守るために、まだ死ぬわけにはいかんのでな!」
ガラルドは懐から、水晶のようなアーティファクトを取り出し、地面に叩きつけた。
パァァァッ!
強烈な閃光と、鼻を突く異臭を放つ煙幕が周囲を覆い尽くす。
「煙幕……!? 卑怯な!」
セラフィナが剣を振るい、煙を切り裂くが、そこにはすでにガラルドの姿はなかった。自身の部下を見捨て、単身で逃亡したのだ。
「追うな、セラフィナ」
蓮が制止する。
「逃げ足の速いゴミだ。放っておいても、いずれまた殺せる」
蓮の視線は、残された浄化部隊の生き残りたちに向けられていた。
2. 教会の真実
蓮は、降伏した司祭の一人を義手で掴み上げ、壁に押し付けた。
「答えろ。お前たちが集めた『濾過された魔力』は、どこへ送られている?」
「ひぃっ! い、言えない! 言えば異端審問に……」
蓮が義手に力を込めると、司祭の肩の骨が軋む音がした。
「教会の審問と、僕のこの右腕。どっちが怖い?」
漆黒の闇を見せつけられ、司祭は失禁しながら叫んだ。
「せ、聖都の地下にある『聖魔融合炉』です! そこで純粋な魔力を結晶化させ……『天使』を降臨させるための依代を作っているのです!」
「天使、だと?」
「はい……。神の尖兵を呼び出し、地上の不純物……つまりEランクや無能力者を一掃し、選ばれた者だけの楽園を作る計画です!」
蓮は司祭を投げ捨てた。
目的は決まった。その融合炉を破壊し、教会の計画を頓挫させる。そして、その混乱に乗じて「世界の裏側」への道を開く。
「次は聖都だ。準備を……」
蓮がそう言いかけた時、広場の端から下卑た笑い声と、女性の悲鳴が聞こえてきた。
3. 暴走する獣欲
そこでは、勝利に酔いしれたスラムの暴徒たち――パラガスの部下や、蓮に治療された男たちの一部が、浄化部隊の生き残りである女性騎士を取り囲んでいた。
彼女は剣を奪われ、地面に組み敷かれている。
「へへっ、いいザマだなぁ、教会のエリート様よぉ!」
興奮した男の一人が、女性騎士の上に馬乗りになり、彼女の純白の軍服の胸元を、両手で無理やり引き裂いた。
ビリィッ! という布が裂ける音と共に、白い肌と下着が露わになる。
「や、やめて……っ! 離して!」
女性騎士は涙目で抵抗し、首を振るが、男はそれを楽しむように彼女の頬を平手打ちした。
「うるせえ! 散々俺たちをゴミ扱いして踏みつけやがって! 今度はテメェが俺たちの便所になる番なんだよ!」
男は自身のズボンのベルトを外し、下卑た欲望に濡れた一物を露出させた。周囲の男たちも、それを止めるどころか、囃し立てている。
「やれやれ! 聖女様の中がどうなってるか見せてみろ!」
「俺にも貸せよ! 溜まってんだ!」
女性騎士の足が無理やり広げられる。彼女の絶望に染まった瞳が、空を仰いだ。そこには、正義も神もなく、ただ暴力的な復讐の連鎖だけがあった。
「いやぁぁぁっ! 殺して! 辱めを受けるくらいなら、殺してぇぇっ!」
男が覆い被さり、その汚れた手を彼女の肌に這わせようとした、その瞬間だった。
4. 王の鉄拳
ドォォォォォン!!
鈍い衝撃音と共に、馬乗りになっていた男の身体が、枯れ木のように真横に吹き飛んだ。
男は数メートル先の瓦礫に激突し、白目を剥いて気絶する。
「あ……?」
周囲の暴徒たちが凍りつく。
そこに立っていたのは、漆黒の義手を握りしめ、鬼のような形相をした蓮だった。
「蓮、様……? なんで……こいつらは敵で……」
男の一人が言い訳しようとした瞬間、蓮の怒号が響き渡った。
「ふざけるなッ!!」
蓮の全身から、物理的な圧力を伴うほどの殺気が噴き出した。暴徒たちは恐怖で腰を抜かし、その場にへたり込む。
蓮は、服を裂かれて震えている女性騎士に自分の上着を投げ渡し、暴徒たちを見下ろした。
「お前たちがやろうとしたことは、あの腐った教会の連中と同じだ。いや、それ以下だ!」
蓮は、気絶した男を指差した。
「力の弱い者を力でねじ伏せ、尊厳を踏みにじる。それがお前たちのやりたかった『国』か? だったら、僕がお前たちを『ゴミ』として処理するぞ」
「ひっ……お、お許しを……!」
男たちが一斉に土下座する。
蓮は、冷徹な声で全軍に命令を下した。
「いいか、よく聞け。僕たちは教会を倒す。だが、野盗や獣にはなるな。敵を殺すのはいい。だが、無抵抗な者を辱めることは絶対に許さない」
蓮はパラガスを睨んだ。パラガスもまた、冷や汗を流して直立不動の姿勢をとった。
「パラガス。軍の規律を徹底しろ。次、こんな真似をする奴がいたら、僕のこの右腕で握り潰す」
「はッ! 申し訳ありません……!」
蓮は、震える女性騎士を一瞥し、フィーネに顎でしゃくった。
「フィーネ、その女を治療してやれ。情報は聞き出すが、手出しはさせない」
「はい、蓮様」
スラムの広場に、痛いほどの沈黙が流れた。




