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「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第一部「復讐と奪還編」

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第40話:穢れた手と、夜明けの誓い

1.初めての殺人、消えない感触


剣崎恭吾の悲鳴が途絶え、動かなくなった肉塊の前で、蓮は荒い息を吐いていた。


左手に握られた錆びた剣は、どす黒い血で濡れている。


蓮は、ゆっくりとその手を離した。鉄屑が泥の中に落ちる音が、鼓膜に不快なほど大きく響いた。


「ぁ……、がぁ……」


胃の底から、熱いものがせり上がってきた。蓮はその場に膝をつき、胃液と思考が混ざり合ったものを吐き出した。


魔物ではない。言葉を話し、感情を持ち、自分と同じ形をした人間を、この手で殺した。


その生々しい感触が、左手の指先から肩まで、蟲のように這い上がってくる。


(殺した。僕が、殺した。ゴミのように、壊した)


右腕の幻肢痛と、左手の残虐な感触。二つの痛みが蓮の精神をかき乱す。


セラフィナが素早く剣崎の部下たちを無力化し、リサが震える蓮の身体を支え起こした。


「蓮様、行きましょう。ここに長居は無用です」


蓮は人形のように頷くことしかできなかった。彼の瞳には、もはや勝利の喜びなど欠片もなく、ただ深い自己嫌悪の色だけが淀んでいた。


2.穢れた手と拒絶


場所は変わり、近くの廃村に残された、古びた宿屋の一室。


蓮は、洗面器の水に左手を突っ込み、何度も何度も擦り洗っていた。


冷たい水が赤く濁っていくように見える。だが、どれだけ洗っても、指の皺に染み込んだ鉄の臭いと、肉を断つ感触が消えない。


「……落ちない。落ちないんだ」


蓮は、濡れた髪を振り乱し、鏡に映る自分を睨みつけた。そこには、光の勇者を倒した英雄ではなく、薄汚い人殺しの顔があった。


部屋には、フィーネ、リサ、セラフィナがいる。彼女たちは、今後のユリア救出について話し合おうとしていたが、蓮の異様な様子に口を閉ざした。


「蓮様、お身体を拭きましょう。その傷も、まだ……」


フィーネがタオルを持って近づこうとすると、蓮は弾かれたように後ずさった。


「触るな!」


その拒絶の言葉は、部屋の空気を凍りつかせた。


蓮は、自分の左手を胸元に抱え込み、震える声で言った。


「汚いんだ……この手は。人を殺した手だ。ゴミ以下の、人殺しの手なんだ……!」


彼は、欠損した右肩を壁に押し付け、自嘲気味に笑った。


「こんな奴が、ユリアを救う? 笑わせるな。僕はもう、誰も救えない。僕が触れたら、みんな汚れてしまう」


3.贖罪と温もり


沈黙を破ったのは、セラフィナだった。


彼女は蓮の前に歩み寄り、その汚れた左手を、両手で強く包み込んだ。


「離してくれ、セラフィナ殿! 汚れる!」


「汚れません。これが罪だと言うのなら、私たちも同罪です」


セラフィナの瞳は真っ直ぐに蓮を見据えていた。


「あそこで剣を振るわせたのは私たちです。貴方が背負う十字架は、私たちが共に背負うものです」


次にリサが、蓮の背後から抱きついた。彼女の獣耳が、蓮の背中に触れる。


「蓮様がどんなに自分を嫌っても、私は蓮様が好き。血の匂いがしても、泥の匂いがしても、蓮様は私の居場所だもの」


そして、フィーネが蓮の正面に立ち、彼の頬に手を添えた。その掌からは、穏やかな『安寧』の魔力が流れ込み、ささくれ立った神経を溶かしていく。


「蓮様。貴方のその手は、私たちを逃がし、守ってくれた手です。汚れてなどいません。……もし、それでも辛いなら、今夜は私たちが忘れさせて差し上げます」


三人は、抵抗する力を失った蓮を、部屋にある大きなベッドへと導いた。


言葉による慰めだけでは足りない。生の実感が、死の感触を上書きする必要があった。


隣り合う肌の温もり。互いの存在を確かめ合うような口付け。


蓮は、涙を流しながら、彼女たちの愛を受け入れた。失った右腕の虚無感も、左手の罪悪感も、彼女たちとの深い交わりの中で、一時だけ溶けて消えていった。


泥と血にまみれた夜は、やがて静寂と体温だけの夜へと変わっていった。


4.夜明けの決意


翌朝。


窓の隙間から差し込む朝日が、蓮の瞼を叩いた。


隣には、安らかな寝息を立てる三人の姿があった。


蓮は、ベッドから起き上がり、自分の左手を見つめた。


昨夜の温もりの記憶が残っている。人を殺した手であることは変わらない。だが、その手は同時に、彼女たちを愛し、守るための手でもあった。


(洗っても落ちないなら、背負って行くしかない)


蓮は、部屋の隅に置いてあった、あの錆びた剣を見やった。


人を殺す不快感も、後悔も、消えることはないだろう。だが、ユリアは今も、永遠の孤独の中で待っている。


「……行かなくちゃ」


蓮は小さな声で呟いた。


もう、自分が綺麗な人間だなんて思わない。Eランクのゴミでも、人殺しでも構わない。


この泥だらけの手で、理不尽な世界の概念をねじ曲げ、ユリアをあの牢獄から引きずり出す。


蓮は拳を強く握りしめた。


その瞳には、昨日までの昏い復讐の炎ではなく、確固たる『再起の光』が宿っていた。


「待っていてくれ、ユリア。必ず助けに行く」


蓮の旅は、ここから本当の意味で始まる。神も、運命も、全てを敵に回す、概念殺しの旅が。

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