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「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生/大場 雷怒
第一部「復讐と奪還編」

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第21話:大義の長老アルウインと、里の現実

1. 閉ざされた楽園の陰

アイリスが指し示した結界の「呼吸の隙間」は、大樹の根元に隠された、大人がようやく1人通れるほどの歪みな大気の綻びだった。

その狭い隙間を潜り抜けた瞬間、それまでの濃い霧が嘘のように晴れ、一同の視界にエルフの隠れ里が広がった。


精緻に組まれた木々の家々、美しく澄んだ美しい泉。だが、そこにはおとぎ話にあるような平穏は微塵もなかった。

里の境界線に目を向ければ、結界のすぐ向こう側まで、どす黒い魔境の歪んだ毒霧が、牙を剥くように激しく打ち寄せている。大気を震わせる不気味な地鳴りが、この美しい里がすでに限界を迎えていることを雄弁に物語っていた。


「……誰だッ!」


鋭い制止の声と共に、周囲の木々から十数人のエルフの射手たちが飛び出し、一斉に蓮たちへ弓を向けた。

リサが即座に身構え、ユリアが蓮の前に出ようとしたその時、戦士たちの割れるような列の奥から、静かに1人の老エルフが歩み出てきた。


銀色に輝く長い髪と、深く刻まれた眉間の皺。その身にまとった格式高い法衣が、彼がこの里の最高権力者であることを示していた。


「私はこの里の筆頭長老、アルウイン。人間の冒険者が、何の用だ」


その声は冷徹だった。だが、蓮の目は、老人の目の下に刻まれた色濃い疲弊の影と、その奥にある引き返せない者の痛切な眼差しを逃さなかった。


「神崎蓮です。ここにいる、フィーネさんを連れ戻しに来ました」


蓮は木の枝を静かに下ろしたまま、淡々と目的を告げた。


2. 1万の命と、1人の器

「フィーネ、だと……」


アルウインの瞳が、一瞬だけ痛ましく揺れた。しかし、その顔はすぐに鉄のような冷酷さへと戻る。


「帰れ、人間。あの娘は渡さん。……いや、渡せるはずがないのだ」


「どうしてですか。彼女は、足手まといになりたくないと言って、1人でここへ戻ってきた。自分の意思ではないはずです」


蓮の口調は落ち着いていた。だが、その言葉の裏には、一度自分の身内だと定めた者を理不尽に奪われようとしていることへの、静かな、冷たい怒りが宿り始めていた。


アルウインは、蓮の背後に控えるアイリスや、並外れた強者を思わせるセラフィナたちの佇まいを見つめ、静かに首を振った。


「お前たちに、この里の現実が分かるか。見よ、あの境界の霧を」


老長老は、里を圧迫するどす黒い魔境を指差した。


「この里を数千年間守ってきた古代の大結界は、いまや完全に枯渇しかけている。あと3日もすれば、あの毒霧が里へ流れ込み、ここに住む3000人の同胞は、子供から老人に至るまで、一人残らず魔物の餌食となって全滅するのだ」


長老の言葉に、ユリアとセラフィナが息を呑んだ。


「結界を維持するためには、莫大な、それこそ現世の理を超えるほどの純粋な魔力の源が必要なのだ。そして今、この世界でその条件を満たすのは……規格外な変異を遂げ、常軌を逸した魔力をその身に宿して戻ってきた、フィーネの『魂の核』だけなのだ」


アルウインの言葉が、重く議場に響き渡る。


「あの娘の魔力を、この里の大結界の炉へと捧げる。それが、この楽園を明日へと繋ぐ唯一の方法なのだ」


3. 指導者の信念

「……つまり、里の数千人を救うために、フィーネさん1人を犠牲にする、ということですか」


蓮の目が、いっそう冷たく冴え渡る。

他人の政治や大義には興味がない。だが、そのためにフィーネの命を燃料として燃やし尽くすという現実に、蓮の腸は煮えくり返っていた。


「そうだ!」


アルウインが激昂したように声を張り上げた。その声には、狂気ではなく、狂おしいほどの悲壮な覚悟が満ちていた。


「間違っていると笑いたければ笑うがいい! 一国の王でもないお前たちに、3000人の命の重みが分かるか! 毎日、恐怖に怯えて泣く子供たちの声が聞こえるか! 私はこの里の指導者だ。同胞を守るためなら、私は喜んで悪魔になろう! 1人の犠牲でこの里のすべてが救われるなら、私は喜んで地獄へ落ち、末代まで大罪人として呪われてやる!!」


老長老の、胸をかきむしるような悲痛な叫び。

そこには、小悪党の身勝手な欲望など微塵もなかった。現実の理不尽さに縛られ、泥を啜りながらも、己の全責任を賭して「多数」を救おうとする、1人の指導者の本物の信念がそこにはあった。


エルフの戦士たちもまた、悲壮な面持ちで弓を引き絞る。誰もがフィーネを愛し、同時に、里のために彼女を殺さねばならない絶望に耐えていた。


誰もがその大義の重さに圧倒され、言葉を失う中。

蓮だけは、アルウインの激しい眼差しを、正面から静かに受け止めていた。


「……あなたの言いたいことは、分かりました」


蓮の口から出たのは、どこまでも平坦な言葉だった。

怒鳴り散らすことも、相手の正義を否定することもしない。ただ、木の枝を握る右手に、僅かに力がこもる。


「ですが、僕は僕の目的のために動きます。フィーネさんは、僕の仲間ですから」


蓮のその揺るぎない、恐ろしいほどの身内への過保護な眼差しを見て、アルウインは直感した。この少年は、3000人の大義などという言葉では、1歩も退かない怪物なのだと。


「……祭壇へ急げ! 何としてでも、儀式を完遂させるのだ!」


アルウインの鋭い号令と共に、エルフの里に、運命の3日間のカウントダウンが告げられるのだった。

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