第19話:聖域からの警告と、国家の危機
1. 聖域を襲う闇の概念
蓮たち四人は、フィーネの故郷であるエルフの隠れ里「聖域」に到着した。しかし、里は奇妙な病によって生命力を蝕まれ、不穏な空気が漂っている。
蓮が到着した際、里のエルフの衛兵たちは、憔悴しきったフィーネを責めていた。
「フィーネよ!お前が里を出たせいで、治癒の力が弱まった!この病は、お前の能力が失われた時から始まったのだ!」
「違います!私の【微小治癒】は、弱まったのではなく、変化したんです!」
長老たちが現れ、事態はさらに深刻だと告げた。
「人間よ、静まれ。この病は、すでに里だけの問題ではない。この数日、里の結界をすり抜けた**『闇の概念』**が、近隣の国境の町まで広がり始めている。通常の治癒魔法は一切効かず、このままでは、国家的な疫病へと発展する!」
蓮は事態の緊急性を理解した。佐野瑛太の汚染された力が、特定の場所の治癒の概念を破壊し、病として世界に拡散し始めている。
蓮は即座にフィーネの妹と里の病人を**『強化された鑑定』**で分析した。
「これは、生命力そのものの**『概念』が汚染されています。『光の勇者』の闇の残滓**と同じ性質。通常の治癒では治せません」
蓮は懐から**『治癒の根源』**の宝珠を取り出した。
2. 苦渋の決断
蓮は、宝珠とフィーネの**【治癒の聖域】を【全能化】**で融合させ、里の病人を治療した。圧倒的な浄化の力に、里のエルフたちは跪き、蓮を救世主として認めた。
しかし、長老は告げた。
「病は治りましたが、闇の概念が里の魔力源を汚染した影響は残っている。そして、この病はすでに国境を越え、王都方面へと向かっている。追うには、手遅れです」
蓮は苦渋の表情を浮かべた。
(僕たちがこの里の汚染源を完全に除去するには時間がかかる。だが、病はすでに王都へと向かっている。国が危機に瀕すれば、僕たちの居場所も、フィーネの故郷も、全て失われる!)
蓮は、**『強化された理性』**をもって、最も冷徹で、最も正しい判断を下した。
「フィーネさん。あなたは、この里に残ってください」
フィーネは絶望したように顔を上げた。
「なぜですか、神崎様!私が、あなたの**『治癒の概念』**として、一番必要なのではありませんか?」
「必要です。ですが、里の魔力源の汚染を除去し、この病が再発しないように見張れるのは、**【治癒の聖域】**に進化し、里の魔力に精通しているあなただけだ」
蓮は、**『治癒の根源』**をフィーネに託した。
「この宝珠は、あなたに預けます。僕たちは、この病の源、**『闇の概念』が向かっているという東方の『神の塔』**へ向かう。そこで黒幕を叩けば、病の拡散は止まる」
3. 残された誓い
フィーネは、蓮の瞳に宿る国家的な使命感と、仲間を守る決意を感じ、自分の自己犠牲が、蓮の重荷になることを悟った。
「わかりました……神崎様。私はここで里を守り、あなた方の勝利を待ちます。必ず、無事に戻ってください。そして、私が里を守りきった暁には、必ずあなた様の傍に戻り、私の『忠誠』と『絆』を、改めてお示しします」
フィーネは涙を流しながら、蓮の手に唇を押し当てた。その行為は、『特別な制御』によって固く結ばれた、誰にも侵されない忠誠の誓いだった。
「必ず戻ります。フィーネさん」
リサ、ユリア、セラフィナも、この苦渋の決断を見届けた。彼女たちの心には、フィーネへの友情と同時に、蓮という主の傍にいる優越感が交錯していた。
「フィーネ。安心しろ。私たちが、神崎を誰にも渡さないよう、最強の護衛を務めてやる」リサが力強く告げた。
蓮は、フィーネの里を後にし、闇の概念の痕跡が向かう**東方の『神の塔』**へと馬車を走らせた。
4. 王都の混乱と不穏な影
蓮たちが旅立った頃、王都では**『闇の概念』**による病が急速に広がり始めていた。
王城の騎士や魔術師が次々と倒れ、機能不全に陥る中、王女エリシアだけは、蓮が施した**『特別な制御』と『強化された理性』**によって正気を保っていた。
「佐野瑛太が作り出した汚染が、ついにこの王都まで……!」
エリシアは、闇の概念が、『光の勇者』の汚名と共に、この国を崩壊させようとしていることに気づく。
その混乱の中、王宮の一室で、幽閉されていたはずの佐野瑛太が、禍々しい黒い光を放ちながら、監視の目を逃れて姿を消した。
「神崎蓮……全て、お前が悪い。お前のせいだ……」
瑛太の心は、『闇の概念』に完全に蝕まれ、憎悪の傀儡となっていた。彼の目的は一つ、「自分を底辺に落とした神崎蓮への復讐」。




