表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第三部「神葬と黎明編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

174/192

第174話:泥の中の胎動

1. 観察者の記録

ミディアムの辺境、ゼフたちの集落に住む若者・ガルは、日課となった牢獄の見張りを続けていた。 鉄格子の向こうにいるのは、かつて「空無の王」と恐れられた人間、神崎蓮である。しかし、今そこに座っているのは、ボロボロの服を纏い、床にひたすら図面を描き続ける一人の無力な男に過ぎなかった。


「……おい、人間。本当にこんな泥を混ぜただけのものが役に立つのか」


ガルの問いに、蓮は顔を上げずに頷く。 蓮が指示したのは、家畜の糞と枯れ草を積み上げ、発酵させる「堆肥」の作り方だった。神の魔法であれば一瞬で土地を豊かにできるが、蓮はその力を一切使わない。 季節は巡り、数ヶ月が経過した。奇跡は起きない。ただ、泥臭い作業が延々と繰り返される。ガルたちの目には、それがひどく滑稽で、同時に不気味なほど誠実なものに映っていた。


2. 救済のアルマ、慈愛の遍歴

蓮が牢獄で知恵を絞る一方、仲間の「救済のアルマ」は集落の家々を回っていた。 彼女もまた、その絶大な治癒魔法を封印している。彼女が手にしているのは、ミディアムの山々で採取した薬草を煮出した、苦い煎じ薬だ。


「アルマ様、そんな面倒なことをしなくても、貴方の光なら一瞬で……」


ユリアが心配そうに声をかけるが、アルマは穏やかに首を振る。 彼女は傷口に丁寧に布を巻き、住人の一人ひとりと対話を重ねていた。魔法による「結果」を与えるのではなく、手当てという「過程」を共有すること。それが、蓮と共に決めたミディアムの住人への罪滅ぼしであった。 アルマが施すのは、神の奇跡ではない。ただの、人の温もりを伴った医療である。それは少しずつ、住人たちの頑なな心を解きほぐしていった。


3. 傲慢の決別

だが、その「停滞」とも取れる光景を、耐えがたい屈辱として見つめる者がいた。 傲慢は、魔力を抑制する鎖を自らの意志で引きちぎり、立ち上がった。


「……茶番だ。泥をいじり、草を煮出し、何が神殺しだ。蓮、貴様はこの数ヶ月で、ただの家畜に成り下がったのか」


蓮は図面を描く手を止め、静かに傲慢を見据えた。


「傲慢、これが俺たちの選んだ『礼儀』だ。力で支配すれば、俺たちはまた同じ間違いを繰り返す」


「抜かせ。私は神を跪かせるためにここにいる。こんな無意味な忍耐、私の『傲慢』が許しはせん」


傲慢は吐き捨てるように言い放つと、漆黒の魔力を爆発させた。彼は蓮の制止を聞かず、そのまま牢獄の壁を突き破り、ミディアムの荒野へと消えていった。 もはや、彼ら三人の道は完全に分かたれたのだ。


4. 盲目の神々

大天では、少女の姿をしたファンタズムが、退屈のあまり椅子の上で転げ回っていた。


「あーあ、もうダメだ。全然面白くない。傲慢くんがいなくなってから、蓮くんたちは毎日毎日、土を運んで薬を煮てるだけ。あんなの、見てるだけでこっちの魔力が吸い取られちゃうよ」


神々の監視回路は、劇的な破壊や憎悪の連鎖を栄養源とする。 蓮が魔力を断ち、アルマが地道な医療を続け、ミディアムの住人との間に「日常」が生まれ始めたことで、監視の解像度は致命的なまでに低下していた。 神々にとって、この集落はすでに「観測する価値のないゴミ溜め」へと成り下がっていた。それは、蓮たちが狙っていた唯一の、そして最大の勝機であった。


5. 胎動する「国」

ガルの村では、初めての収穫が行われていた。 蓮の知恵に従って土を改良した畑から、歪ながらも力強い芽が吹き出したのだ。 それは魔法による完璧な果実ではない。住人たちが汗を流し、守り抜いた本物の「収穫」であった。


「……やった。本当に、芽が出たぞ」


ガルの呟きは、いつしか村全体の歓喜へと変わる。 牢獄の中、蓮は初めて安らかな微笑を浮かべた。 神の庭ではない、ミディアムの住人と人間が知恵を出し合って作った、新しい「国」の形が、そこには芽生えつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ