第17話:概念の遺跡と闇の残滓
1. 霧の魔境の最深部
フィーネが立ち去ってから数日。蓮たち『エンハンサーズ』は、霧の魔境の最深部に到達した。霧は晴れ、そこに現れたのは、古代エルフ文明の巨大な遺跡だった。その外壁には、**『概念を操る魔術師』**が残したと思われる、複雑怪奇な魔法陣が刻まれていた。
遺跡の中に入る前に、蓮は立ち止まり、残った仲間たちを見た。
「リサ、ユリア殿、セラフィナ殿。フィーネさんが残した手紙を、今一度、心に刻んでください。彼女は、僕たちの秘密を守り、僕たちの邪魔をしたくないから去った。僕たちがすべきは、この遺跡の秘密を暴き、彼女の故郷の危機を解決することです」
リサは、フィーネの不在にまだ苛立ちを隠せない。
「わかっているわ、神崎。あいつのバカな自己犠牲を、私たちが最強の実力で踏みにじってやる」
ユリアとセラフィナも、蓮への忠誠と、フィーネへの思いを胸に、静かに剣を構えた。彼女たちの絆は、欠けた仲間の存在によって、より一層強固になっていた。
2. 概念の図書館
遺跡の内部は、巨大な円形の空間だった。壁一面には、古代の文献や、この世界の**『概念』**そのものを書き換えるための術式が刻まれた石板が並んでいた。
蓮は、**『強化された鑑定』と『言語解読能力』**をフル活用し、その膨大な情報を瞬時に処理していく。
「この遺跡は、物理的な力ではなく、**『認識』と『概念』そのものを試してくるようです。セラフィナ殿の『断罪の概念』**が、ここで真価を発揮する」
その時、遺跡の守護者である、**『概念のゴーレム』が起動した。その体は一定の形を持たず、「恐ろしい魔物」という『概念』**を読み取った人間の心に応じて、姿を変える。
ゴーレムは、リサの心に反応し、巨大な**『牙を持つ獣』**の姿に変貌した。
「リサ、落ち着いて!それは、あなたの**『恐怖』**が作り出した姿よ!」ユリアが叫ぶ。
リサは怯むことなく剣を振るうが、**『恐怖』**が実体化したがゆえに、斬撃が通らない。
「くそっ、私の剣が届かない!」
3. 闇の残滓と不吉な真実
セラフィナは冷静だった。
「その魔物は、『虚偽』。私の剣の**『断罪の概念』**をもって、その虚偽を切り裂く」
セラフィナが剣を振るうと、ゴーレムの**『概念』は強制的に『ただの岩石』**へと書き換えられ、岩の塊となって崩壊した。
戦闘後、ゴーレムが崩壊した場所から、奇妙な**『黒い霧』**が立ち上った。蓮は即座に鑑定する。
「これは……**『汚染された光の魔力』**の残滓……?」
蓮の鑑定結果に、ユリアが顔色を変えた。
「汚染された光……まさか、佐野瑛太の【神の光】が、この遺跡の魔力と接触した残骸ですか?」
「いいえ。これは、佐野瑛太が暴行罪で捕縛された際に報告された**『憎悪の闇』の光と、同じ性質の魔力です。そして、フィーネさんの故郷を襲う『奇妙な病』も、この『概念の汚染』**と酷似している」
蓮は確信した。佐野瑛太の転落は、彼自身の自滅であると同時に、この遺跡に潜む**『概念を操る魔術師』、あるいは『それを超える黒幕』が、『光の勇者の概念』そのものを汚染し、『闇の種』**として利用した結果だったのだ。
4. フィーネへの誓い
蓮は、遺跡の奥で、古代の文献が記された**『概念の秘本』を見つけた。それを『強化された言語解読能力』で読み解くと、古代の魔術師が、『光と闇の概念を反転させる方法』**を研究していたことが判明した。
「つまり、佐野瑛太の【神の光】は、誰かの手によって意図的に**『闇』**へと反転させられていた。そして、その汚染が、フィーネさんの里の病として、今、世界を蝕み始めている」
蓮の瞳に、怒りの炎が灯った。
「僕たちは、フィーネさんのために、そしてこの世界のために、この**『闇の概念』**の拡散を止めなければならない」
リサは、フィーネへの思いを新たに、剣を握りしめた。
「神崎、急ぎましょう。フィーネは、一人で里を守ろうとしている。私たちが、最強の力で、里の危機を、そしてこの闇を終わらせてやる」
蓮は、木の枝を**『強化された意思』**で握りしめた。
「ええ。僕たちの力は、Eランクのゴミを良くする能力ですが、その力は、この世界の**『虚偽の概念』を全て、『真実』**へと書き換えるためにある」
蓮たちは、フィーネの故郷の危機を救うため、そして佐野瑛太を利用した真の黒幕を討伐するため、遺跡の奥深くへと足を踏み入れた。彼らの旅は、もはや個人的な名誉回復ではなく、世界の概念をかけた戦いへと変貌していた。




