第163話:大天の崩落、あるいは王の進撃
1. 蹂躙の終焉、進撃の産声
十日間に及ぶ神々の悪辣な遊戯は、皮肉にも彼らが最も忌み嫌う「不純物」を究極の形へと鍛え上げる結果となった。 色彩を取り戻した開拓地「ゼロ」の空には、もはや絶望の雨も、戒律の網も存在しない。ただ、白銀の輝きを放つ神崎蓮が、自らの足で大地を踏みしめて立っていた。
「……ユリア、傲慢。準備はいいか。ここからは、俺たちのわがままを通す時間だ」
蓮が右腕を天に掲げると、その指先から白銀の虚無が奔流となって噴き出した。それは空に居座る「大天」の境界を強引に侵食し、不可侵のはずの神域に巨大な「風穴」を開けていく。
2. 神無き玉座からの出陣
蓮の背後には、かつて操り人形のように意志を奪われていた民たちが立ち並んでいた。彼らの瞳には、恐怖ではなく、自らの王が示す「理不尽なまでの力」への確信が宿っている。
「蓮様、どこまでもお供いたします。貴方が切り拓く道に、私の剣を捧げます」
「フン、ようやく面構えが変わったな。神崎蓮。貴様を殺すのは、あの無能な神どもをすべて私の足元に跪かせた後だ。精々、道中に不覚を取るなよ」
三人の意志が一つに重なった瞬間、開拓地全体を包み込むような白銀の閃光が弾けた。彼らはもはや「織られる糸」ではない。運命という布を切り裂き、神々の喉元を狙う「断絶の刃」として、天へと昇り詰めていく。
3. 円卓の狼狽:道化の神ファンタズム
大天の最上層、優雅に茶会を楽しんでいた四神の円卓が、激しい振動と共に大きく傾いた。
「あはは……え、嘘だろ!? 境界が……僕の掃除針が、一瞬で蒸発した? 冗談はやめてよ、あんなゴミみたいな不純物に何ができるっていうんだ!」
常に余裕の笑みを浮かべていた道化の神ファンタズムが、顔を引きつらせて立ち上がる。彼の目の前の空間がガラスのように砕け、そこから白銀の炎を纏った蓮が、音もなく姿を現した。
「……秩序が、存在しない。奴の周囲一帯が、我らの定義した法則が通用しない『完全なる異物』に書き換わっているのか」
「断罪の秤が機能せん……。あれはもはや、審判を受ける対象ですらないというのか」
4. 最初の不協和音:神殺しの序曲
「お前、さっきまで随分楽しそうに笑ってたな」
蓮の冷徹な声が、神域の静寂を切り裂いた。 ファンタズムは焦燥を隠すように指を鳴らし、何万本もの漆黒の糸を蓮に放つ。それは触れた者の精神をバラバラに解体し、無限の悪夢に閉じ込める神の権能。
だが、蓮は避けることさえしなかった。 漆黒の糸が彼の肌に触れた瞬間、それは「意味を持たないノイズ」として白銀の虚無に飲み込まれ、霧散していく。
「あ、あわわ……僕の芸術が! 僕の織った最高傑作が!」
「芸術? ……そんな呼び方で、俺の部下の命を、みんなの人生を弄んだのか。……なら、その芸術ごと、お前を無に帰してやる」
蓮が踏み込む。 その一歩は大天の床を物理的にではなく、概念的に破壊した。
5. 英雄の咆哮
「ユリア、傲慢! こいつは俺がやる。お前たちは、あそこで偉そうに座ってる奴らの首を洗っておけ!」
「承知いたしました!」 「言われずとも、あの蒐集家の女は私が仕留める。私の『傲慢』を汚した代償は高いぞ」
ユリアと傲慢が、動揺を隠せない神々の円卓へと突撃を開始する。 そして蓮は、震えながら後ずさるファンタズムの胸ぐらを、透明化した白銀の右腕で力強く掴み上げた。
「……さあ、十日間の続きをしようぜ。今度は、俺がお前たちをあざ笑う番だ」
大天の空に、初めて「神の悲鳴」が不協和音となって響き渡った。




