第155話:虚空の円卓、あるいは観察者の嘲笑
1. 「大天」の優雅なる退屈
地上に降り注ぐ紫の光が、人々の魂を「平穏な死」へと誘い、かつてのトラウマが泥濘のように足元を絡め取る。その地獄絵図を、大天の上層に位置する「機織りの円卓」では、四神が極上の娯楽として眺めていた。
空間には、地上の「悲鳴」や「絶望」が、美しく変換された音色となって流れている。 第一位神・秩序の機織り「ゼテス」は、手元の杯に注がれた黄金の雫を揺らしながら、冷淡な口調で口を開いた。
「……見てください。あの『不純物』が、何やら解決策を模索しているようです。消去では救えぬと悟り、今度は人々に『痛み』を与えようとしている。滑稽だとは思いませんか?」
2. 神々の冷笑:生存という名の「不具合」
「ふふ、本当に面白い子。私の『揺り籠』の中にいれば、これ以上傷つかずに済むというのに。わざわざ茨の道を歩もうとするなんて」
ヴェスペラは、地上の惨状を指先でなぞりながら、慈愛に満ちた(しかし中身は空虚な)声を上げた。
「人間というのは不思議な生き物ですわ。安らかな眠りよりも、泥を啜るような生を尊ぶなんて。でも、無駄な努力よ。一度私の『安寧』を知った魂は、二度と不快な現実には戻れない。彼が与えようとしている『痛み』など、私の愛の前ではただの微風に過ぎませんもの」
道化の神ファンタズムが、皿の上で転がる「掃除針」の残骸を弄びながら、高い笑い声を上げる。
「あはは! 解決策? そんなもの、最初からこの世界(布)には織り込まれていないよ! 彼がやろうとしているのは、燃え盛る火の中に油を注いで、火の色を美しくしようとしているだけさ。結局、すべては灰になるというのにね!」
3. 「不干渉」という名の蹂躙
「ロゴス、貴公はどう見る。あの英雄の足掻きを」
ゼテスに問われた鎧の神ロゴスは、重々しい沈黙の後に、断罪の響きを帯びた声を放った。
「……無意味だ。奴は『自分を信じろ』とでも説くつもりだろうが、神の定義した『絶望』に抗えるほど、人間の意志に質量などない。あれはただの反射だ。死にゆく虫が、最後に脚を痙攣させているに過ぎん」
神々にとって、蓮たちの足掻きは「解決」に向かうプロセスではなく、単なる「末期の踊り」に過ぎなかった。彼らは知っている。自分たちが織りなす不協和音のスケールに対し、地上の不純物たちが持つ影響力が、いかに微々たるものであるかを。
4. 次なる「遊戯」の準備
「さて、彼がその『無駄な努力』でわずかな希望を見出した瞬間に、どん底へ叩き落としてあげましょうか。ヴェスペラ、貴女の慈愛に、私の『秩序』を少しだけ混ぜてあげます」
ゼテスが指先を動かすと、地上の紫色の霧に、幾何学的な「戒律」の光が混ざり始めた。
「自分たちが生きようとすればするほど、愛する者が苦しむ……そんな『正しい因果』をプレゼントしてあげましょう。ああ、彼がどんな顔をするか楽しみですね」
神々は互いに、歪んだ共感の笑みを交わし合う。 そこには敵意さえない。ただ、路傍の蟻が水溜まりで溺れる様子を観察し、わざと小石を投げ入れる子供のような、純粋で絶対的な悪意。
地上で蓮が必死に手繰り寄せようとしている「解決策」など、神々の気まぐれ一つでさらに深い絶望へと書き換えられる、ただの「図案の一部」でしかなかった。




