第147話:誇り高き拒絶、あるいは偏執的な追跡者
1. 「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 」
「だが断る。」
一瞬、崩壊を続ける世界の音が止まったかのような静寂。アルマの眉が僅かに動く。傲慢は尊大なポーズで空を仰ぎ、理由を突きつけた。
「この傲慢が最も好きな事の一つは、自分を万物の支配者だと思い込み、他人をテストなどという安い尺度で測る奴に対し、『NO』と断ってやることだ! アルマ、貴様の筋書き通りに動くなど、私の存在の格が許さぬのだよ」
彼は不敵な笑みを浮かべ、黒紫の雷鳴を自身の周囲に展開した。 「貴様の『奪われた過去』など知ったことか。私は私の意志で歩く。貴様の下僕として神を打つのではない。私という絶対の『個』が、理不尽な神々を跪かせる……ただそれだけのことだ」
2. 英雄の再起と二度の葬送
「……相変わらず、……理屈っぽい野郎だ」
泥の中から、掠れた声が響いた。 ユリアに支えられ、ようやく意識を取り戻した蓮が、顔の泥を拭いながら立ち上がった。その右腕の虚無は、先程までの暴走が嘘のように、深い静寂を纏っている。
「蓮様、無理をなさらないでください!」
「大丈夫だ、ユリア……。やっと、お前の本当の声が聞けたんだ。それだけで、お釣りがくる」
蓮はユリアの手を握り直し、空を見上げた。 アレックス。あの執念深い簒奪者は、一度ならず二度までも蓮の前に立ち塞がった。一度目は共闘の果ての裏切り、二度目は神の残骸を取り込んだ再誕。だが、傲慢が与えた「二度目の死」によって、今度こそ彼は因果の布から完全に引き千切られた。
その結果としてユリアが戻ってきたのなら、蓮にとってアルマへの怒りは二の次だった。
「アルマ。お前のやり方は反吐が出るし、テストなんて言葉で俺たちを弄んだことは一生許さない。……だが、大天の神々がこの『多層的不協和音織』なんてふざけた仕組みで俺たちを糸扱いしてるってんなら……話は別だ」
蓮は、アルマの赤い糸を見据えた。 「協力してやるよ。ただし、俺は俺の愛のために、神々の指先をへし折りに行く」
3. 傲慢の歯切れと、隠された誓い
蓮が「協力」を口にした瞬間、傲慢はフンと鼻を鳴らしたが、その表情にはどこか歯切れの悪さが混じっていた。
「……勝手にしろ。貴様が死ねば、私の戦歴に傷がつくというだけだ」
傲慢は無愛想に背を向けた。 だが、その内心は穏やかではなかった。彼は、蓮に敗れ散っていった同胞――他の六つの大罪たちに誓っていたのだ。『いつか必ず、この神崎蓮という男に復讐を果たし、その首を我が足元に転がす』と。
だからこそ、彼は歴史の裏側で、蓮がどこで何をしているのかを病的なまでに把握し続けていた。かつて蓮の所在を突き止めるために使った執念は、もはやストーカーの域に達していたが、それを今の蓮に知られるわけにはいかない。
(……勘違いするなよ、神崎蓮。私が貴様の監視を続けていたのは、あくまで復讐の機会を伺うためだ。……貴様を助けるためでも、ましてや寂しかったからでもない……!)
傲慢は己の内心でそう毒突き、なるべく自然な動作で蓮の「後方」を陣取った。常に視界に入れておかなければ、復讐の相手を神々に奪われてしまう――そんな歪んだ言い訳を自分自身に言い聞かせながら。
4. 大天の門、不協和音の幕開け
「……いいわ。動機なんて、この際どうでもいい」
アルマは、蓮と傲慢のそれぞれの「傲慢さ」に満足したように微笑んだ。 彼女の赤い糸が、空の亀裂を押し広げる。そこから見える「大天」は、人の理解を拒絶するような幾何学的な色彩に満ち、慈悲深き神の涙と、理不尽な神々の嘲笑が混ざり合った不協和音の聖域だった。
「行きましょう。糸が解け、布が燃え尽きる前に。神々の指先が届かない、私たちのための『終わり』を掴み取りに」




