表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ゴミを良くする能力」と笑われたEランクの俺、無限強化で神を超え、光の勇者を踏み潰します  作者: 限界まで足掻いた人生
第三部「神葬と黎明編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/185

第131話:摩耗する日常、砂の城の微熱

朝食のスープを啜る音が、やけに耳に刺さる。 焚き火の爆ぜる音、リサがパンをかじる音、セラフィナが資料をめくるカサついた音。すべてが日常の音のはずなのに、俺の胃の奥には、鉛を飲み込んだような重苦しさが居座っていた。


「……蓮、スープ冷めちゃうよ? ほら、あーんしてあげようか?」


リサが茶化すようにスプーンを差し出してくる。耳をぴょこぴょこと動かし、いつもの明るい笑顔。だが、その瞳の奥には、俺の右腕に隠された「痣」を嗅ぎ取ろうとする、獣特有の鋭い不安が張り付いていた。


「……いいよ、自分で食う」


俺は素っ気なく答えて、スプーンを口に運ぶ。 味がしない。 正確には、味覚はあるはずなのに、脳がそれを「栄養」として認識することを拒絶しているようだった。


ふと視線を落とすと、俺が握っている木製のスプーンの先が、わずかに白く、粉を吹いたように脆くなっている。神の「滅菌」の塵。それが、この新世界のあらゆる物質を、音もなく砂へと変え始めていた。


「……ねえ、蓮さん。昨日、西側の開拓区で、少し変なことがあったのです」


フィーネが、祈るように組んでいた手をほどき、静かに切り出した。彼女の透き通るような肌には、昨日まではなかった薄い「灰色の染み」が浮かんでいる。


「開拓に使っていた道具が、一晩で全部砂になったそうです。それだけじゃない……そこにいた人たちの、数人の『名前』を、誰も思い出せなくなっている。まるで、最初からいなかったみたいに」


食卓が凍りついた。 セラフィナが震える指で眼鏡を押し上げ、手元の計算機を叩く。だが、その画面には「ERROR」の文字が虚しく明滅するだけだった。


「物理法則が、計算を拒否しています。この世界には、もう『保存』という概念が残っていない……。使えば減る。触れれば壊れる。そして、壊れたものは二度と修復できない。これが、神の管理を外れた不純物たちが辿る、熱力学的な末路だと言うのですか?」


セラフィナの声は、悲鳴に近い。 論理で世界を測ってきた彼女にとって、この「理不尽な消失」は、死よりも恐ろしい屈辱なのだろう。


「……みんな、大丈夫だよ」


沈黙を破ったのは、ユリアだった。 彼女は俺の右手に、自分の両手をそっと重ねた。その手のひらは、驚くほど熱い。まるで、自分の命を燃やして、俺の冷え切った虚無を温めようとしているみたいだ。


「世界が壊れていくなら、その都度、私たちが作り直せばいいだけです。蓮様が神様を倒してくださったのは、私たちが『自分の手で』苦労するためだったはずですから。……そうでしょう?」


ユリアの微笑みは、残酷なほどに純粋だった。 彼女は気づいている。自分の体力が日に日に落ちていることも、その温もりが「命の削りカス」であることも。それでも彼女は、俺のために、一人の「女」として、この砂の城の上でダンスを踊り続けている。


俺は、重ねられた彼女の手を握り返した。 だが、その感触は、どこか遠い。 自分の皮膚が、彼女との境界線を失い、徐々に世界の「外」へと溶け出していくような感覚。


「……ああ。そうだな。ユリアの言う通りだ」


俺は嘘をついた。 空の亀裂は広がり、そこから漏れ出す「赤い糸」が、アルマの背後で巨大な蜘蛛の巣のように張り巡らされている。 そして、その糸の先端が、今まさに俺の足元にまで伸びてきていることを、彼女たちには言えなかった。


神に勝ったんじゃない。 俺たちは、ただ「死に方」を選ぶ権利を勝ち取っただけだ。


「蓮……手が、冷たいよ」


リサが不安げに俺の袖を引く。 俺はその手を振り払うことができず、ただ、いつ崩れるとも知れないこの温かな地獄を、少しでも長く繋ぎ止めようと、力一杯彼女たちを抱き寄せた。


剥がれ落ちる蒼穹。降り積もる白い塵。 俺たちの「日常」が、砂の音を立てて崩壊し始めるまで、あとわずか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ