第127話:簒奪の残滓、裁きなき終焉
1. 黄金の抜殻、冷徹な現実
アルマが蒼い糸で編み上げた新世界。その大地の片隅に、かつてアレックスであった「黄金の残骸」が転がっていた。それは人間としての形を保つことすら許されず、神の機構に食い荒らされた、ただの輝く泥。
蓮は、ユリアを背後に庇いながらその残骸を冷たく見下ろした。 右腕の傷が疼く。アレックスの裏切りによって流された血、リサたちが流した涙、ガイウスの命を賭した突撃。それら全てを、蓮は一秒たりとも忘れてはいない。神を屠った虚無の刃は、同時にこの裏切り者の野望をも粉砕したのだ。
「……死んだのか、アレックス」
蓮の声には、慈悲も、かつての戦友に対する哀悼もなかった。
2. アルマの宣告、簒奪の行方
「彼は、自らが望んだ『神』の一部になった。……正確には、神の排泄物としてこの世界に吐き出されたのよ」
歩み寄るアルマ。彼女の白い髪が風に揺れ、蒼い瞳が黄金の泥を射抜く。 アルマが世界を再構築する際、アレックスの「簒奪」の力もまた、材料の一部として消費された。だが、彼の醜い意志だけは、この新世界の理の中に組み込むことを、アルマは断固として拒絶したのである。
「蓮、彼を許す必要はない。彼はこの世界のどこにも帰れない。……けれど、彼の『力』の残滓だけは、私がこの世界の底に封印した。……それが、いつか私の言った『赤く染まる糸』の原因になるかもしれないけれど」
3. 消えない呪詛、裏切りの代償
蓮は、腰に差したガイウスの折れた剣の柄を強く握りしめた。 アルマの言葉は重い。アレックスという男は消えたが、彼が求めた「完璧な支配」という欲望の種は、この不完全な新世界の深淵に、毒として沈んでいる。
「……あいつがまた這い上がってくるなら、その時は俺が、今度こそ完全に虚無に還すだけだ」
蓮の視線は、もはや黄金の残骸にはなかった。 隣で自分を見つめるユリア。その瞳に宿る、温かな光。 アレックスが「弱さ」だと笑った人間の情愛が、今、自分たちを立たせている。一方、神になろうとしたアレックスは、自らが愛した「黄金」の中に閉じ込められ、永遠に目覚めることのない孤独へと堕ちた。
4. 泥濘の門出、決別の荒野
「往こう。……ここにはもう、俺たちの知っているアレックスはいない」
蓮は背を向けた。 リサが、フィーネが、セラフィナが、それぞれの想いを胸に、その黄金の残骸を一度だけ睨みつけ、蓮に続く。 裏切りの代償。それは、再構築された輝かしい未来の中に、名前すら残されないという「絶対的な忘却」。
残り、零日。 神は死に、簒奪者は堕ちた。 一の虚無と三の救済が、二の裏切りを足蹴にして、不自由な自由の荒野へと踏み出す。
5. 地に這う予兆
一行が立ち去った後、黄金の泥が、ピクリと不気味に震えた。 それは再生の鼓動ではない。 アルマが封印したはずの、アレックスの「簒奪」という名の呪いが、新世界の土壌に染み込み、静かに毒を育て始める予兆。
神殺しの余熱は、まだ冷めてはいない。 裏切りの連鎖は、形を変え、アルマが危惧した「赤い糸」へと繋がっていく。




