第123話:神への反逆、一億の祈りと一人の恋
1. 黄金の絶対法
神殿の最奥。アレックスが玉座から立ち上がると、その背後の黄金翼が光の粒子へと分解され、巨大な**「黄金の法典」**へと姿を変えました。
「定義する。——この領域において、不純な質量(人間)の存在を禁ずる」
アレックスが放つ言葉は、そのまま世界の理を上書きする絶対命令。 アヴァロン・ギアの白銀の装甲が、まるで酸に焼かれるようにボロボロと崩れ始めました。機体各部から警告音が鳴り響き、セラフィナたちの魔力障壁も紙切れのように引き裂かれます。
「無駄だよ、蓮。君が持ち込んだその『重荷』こそが、神の理においては最大の脆弱性だ。数千人の民の命……それを守りながら戦うなんて、神への反逆としては余興にもならない」
2. 人間の『底力』
「脆弱性……? 笑わせるな」
蓮は歯を食いしばり、血の滲む手で操縦桿を握り直しました。 機体各所が火花を吹き、システムが次々とダウンしていく。しかし、蓮の目には絶望の色はありませんでした。
「カイル、セラフィナ! 例のシステムを起動しろ。……あいつが『ゴミ』だと切り捨てたものの真価を見せてやる」
「了解です、リーダー。……全避難民の精神波、アヴァロン・ギアの魔力炉と同期開始!!」
3. 方舟の隠された機能:『共鳴の回廊』
アヴァロン・ギア=方舟の真の姿は、単なる移動手段ではありませんでした。 それは、蓮の「虚無」の力を媒介にして、中に乗る数千人の**「生きたいと願う意志」**を一つの巨大な魔力へと変換する共鳴装置。
「……聞こえるか、アレックス。これが、お前が標本にしようとした奴らの『声』だ」
方舟の内部から、数千人の祈りが、怒りが、希望が、蓮の右腕へと流れ込んできます。 かつては他人の想いを「面倒なもの」として遠ざけていた蓮が、今はその重みを自らの力として受け止めていました。
一、父を奪われた者の怒り。 二、家を焼かれた者の悲しみ。 三、それでも明日を信じる子供の願い。
4. 虚空を穿つ『一人の男の恋心』
そして、その奔流の中心に、静かに眠るユリアの「聖域」がありました。 彼女の魂は肉体から離れていても、蓮が与えた定義によって、この方舟のすべての祈りを繋ぎ止める**「核」**となっていたのです。
「……良くなれ。……なんて、もう言わない」
蓮の右腕が、黒い炎を纏いながら肥大化していきます。 それは神の理を書き換える力ではなく、神の理そのものを**「無かったこと」**にする、究極の否定。
「俺は、お前を殺す。……この世界を、お前みたいな綺麗なだけの空っぽな場所にさせないために。……そして、何より。……俺の惚れた女が、最後まで守ろうとしたこの泥臭い世界を、俺が守り抜くために!!」
5. 極限の衝突
「定義:神殺しの虚無!!」
蓮が放った漆黒の一撃は、アレックスの黄金の法典を真っ向から砕き割りました。 神殿が激しく揺れ、天界の空に巨大な「亀裂」が走ります。 完璧だった黄金の世界に、不純で、醜く、しかし力強い「人間の闇」が侵食し始めました。
「バカな……!? 僕の神域が……ただの人間の、あんな薄汚い感情に屈するなんて……ッ!」
残り五十七日。




