第119話:不屈の老獅子と、受け継がれる剣
1. 聖域の跡地へ
アヴァロン・ギアを「方舟」へと作り変えるための最終部品——神の干渉を無効化する『天の礎』。それがかつての教会本部、現在は神の眷属が徘徊する「聖都の廃墟」にあることが判明しました。
蓮はリサ、フィーネ、セラフィナ、そして眠るユリアを乗せた装甲馬車を走らせます。 聖都の入り口に差し掛かった時、一行を待ち受けていたのは神の軍勢ではなく、一団の重装騎士たちでした。その中心に立つのは、鋼のような肉体と、歴戦の傷跡を刻んだ峻厳な面持ちの老人。
ユリアの父であり、王国最強と謳われた元聖騎士団長、ガイウスでした。
2. 父と男の対峙
「……神崎蓮。貴様がどの面を下げてここへ来た」
ガイウスの声は、地を這う雷鳴のように重く響きました。彼は教会の腐敗をいち早く察知し、神の六日間の中でも独自の騎士団を率いて生き延び、この地で生存者を守り続けていたのです。
「ガイウス殿。俺は……」
「黙れ。貴様が娘をどう扱ったか、風の噂で聞いている。感情を失ったユリアを道具として使い潰し、あまつさえその命まで……」
ガイウスの放つ威圧感に、リサたちが息を呑みます。彼は娘が「非人道的な王」に付き従わされ、命を落とした(と彼には伝わっていた)ことに、猛烈な憤りを感じていました。
3. 剥き出しの誠意
蓮は馬車を降り、ガイウスの前で無防備に立ちました。かつての傲慢な王なら、力でねじ伏せていたでしょう。しかし、今の蓮は違いました。
「……その通りだ。俺は最低な男だ。ユリアの献身に甘え、あいつの心を殺して利用した。……俺を殺して気が済むなら、今ここで首を跳ねてくれて構わない」
蓮は静かに膝をつき、頭を垂れました。
「だが、あいつは……ユリアは最期まで、俺の中に『人』を見てくれていた。あいつが命を懸けて守ったのは、冷酷な王じゃない、一人の男としての俺だったんだ。……俺は、あいつが信じてくれた自分を、今度は俺自身が信じて、あいつの愛した世界を守りたい」
4. 託された剣
ガイウスは剣を抜き、蓮の首筋に刃を当てました。緊迫した空気が流れますが、蓮の瞳には一点の曇りもありませんでした。 やがて、ガイウスは静かに剣を引きました。
「……娘が最期に何を見たのか。貴様のその情けない顔を見て、少しだけ分かった気がする」
ガイウスは背後の聖堂を指差しました。
「奥に『天の礎』がある。……ユリアは、自分の正義を貫いて死んだのだろう。ならば、その父として、俺が貴様を否定することは娘の誇りを汚すことになる」
ガイウスは蓮の肩に力強く手を置きました。その手は、父親としての慈しみと、騎士としての覚悟に満ちていました。
「行け、神崎蓮。……いや、娘が惚れた男よ。ここからの道は、我ら騎士団が殿を務める。貴様は、あいつが見たかった明日を、その手で掴み取ってこい」
5. 共闘の黎明
一、老騎士の不屈。 二、父から男へ託された遺志。 三、神を射抜くための最後の欠片。
ガイウス率いる生き残りの騎士団が、押し寄せる神の軍勢を食い止める壁となります。その背中に守られながら、蓮たちは聖堂の奥へと突き進みました。
「……ユリア。お父さんは、やっぱり凄く強い人だったよ」




