第118話:王冠を脱ぎ捨てた男、再会の誓い
1. 跪く王
ユリアを「聖域」として眠らせた医療区の扉が、ゆっくりと開きました。 そこには、心配と恐怖に顔を歪めたリサ、フィーネ、セラフィナが立ち尽くしていました。
蓮は彼女たちの顔を真っ直ぐに見つめました。これまで、自分の弱さを隠すために避けてきた、眩しすぎるほどに純粋な瞳。 蓮は、無言のまま彼女たちの前でゆっくりと片膝を突き、深く頭を下げました。
「……すまなかった。……本当に、すまなかった」
王と呼ばれ、神を屠ると豪語した男が、泥にまみれた床に手をつき、一人の男として謝罪を口にしました。
2. 卑怯者の告白
「俺は怖かったんだ。お前たちの温かさに触れて、今の自分の目的が……復讐が、揺らぐのが。自分を忘れたユリアを盾にすれば、冷酷なまま戦い続けられると、自分に都合のいい言い訳をしていた。俺は、お前たちの愛から逃げた卑怯者だ」
「蓮……」 リサが震える足で一歩、近づきます。
「ユリアは……最期に俺を許してくれた。あいつは、俺に『人として』歩いてほしいと言った。……俺は、お前たちを道具として見ていた。お前たちが俺を想ってくれる心を、自分の保身のために利用した。……そんな俺を、今さら許してくれとは言わない。だが」
蓮は顔を上げました。その瞳には、かつての虚無的な冷徹さではなく、悲しみと決意が混ざり合った「人間」の熱が宿っていました。
「これからは、お前たちを一人の一人として……大切にしたい。神殺しのためじゃなく、お前たちが笑える明日を作るために、俺の命を使わせてくれ」
3. 絆の修復
「……バカ、蓮」 リサが堪らず駆け寄り、蓮の胸に頭をぶつけました。 「そんなの、当たり前じゃん……! 私たちは、王様についてきたんじゃない。蓮が……蓮だから、ここにいたんだよ!」
「蓮さん。貴方が一人で背負う必要なんて、最初からなかったのです。私たちは、支え合うために側にいるのですから」 フィーネが優しく蓮の手を取り、その冷えた手を包み込みました。
「非合理的な謝罪ですね、蓮」 セラフィナが眼鏡を拭いながら、隠しきれない安堵の笑みを浮かべました。 「ですが……その言葉がなければ、私たちの解析精度も上がらなかった。感情は、不純物ではなく……私たちの動力源なのですから」
一、崩れ去った王の仮面。 二、分かち合った深い悲しみ。 三、再び繋がった、真実の絆。
4. 遺志を継ぐ反撃
蓮は立ち上がり、静かに眠るユリアを一瞥しました。彼女の肉体は、蓮の虚無によって、永遠に朽ちることのない美しい姿のまま保護されています。
「カイル。アヴァロン・ギアの改修案を変更する」 蓮が通信機を手に取ると、その声には以前のような「狂気」ではなく、静かな「重み」がありました。
「あいつ(神)を殺すためだけに特化させた攻撃機能は捨てろ。……この国に生き残る人々を護り、天界まで確実に運び届ける『方舟』としての機能を最優先にする。……俺たちが神を殺すのは、復讐のためじゃない。奪われた日常を取り戻すためだ」
「了解しました、蓮様。……いや、リーダー。……待っていましたよ、その言葉を」 通信機の向こうで、カイルの晴れやかな声が響きました。
5. 六十八日目の黎明
地下シェルターの窓から見える空は、相変わらず不気味な白に染まっています。 しかし、蓮の隣には、もう「自分を忘れた人形」はいません。 涙を拭い、武器を手に取り、共に明日を拓こうとする「仲間たち」がいました。
「行くぞ。……ユリア、見ていてくれ。お前が愛したこの世界を、今度は俺が……俺たちが、守り抜いてみせる」
残り六十八日。 一人の少女に恋をした男の、真実の逆襲。




