第107話:灰の村の残党と、王の資格
枯れた故郷の再会
4つ目の爆心地へ向かう進路上、かつて蓮が「アヴァロン」を建国する以前、まだ一介の冒険者だった頃に救おうとして、結局救いきれなかった「ローズ村」の跡地を通ることになった。
そこには、神の蹂躙から逃げ延びた数少ない生存者たちが、泥水を啜りながら細々と暮らしていた。
「……お前は、あの時の、神崎……蓮か?」
一人の痩せこけた老人が、馬車を止めて蓮を指差した。 その瞳には、救世主を仰ぐ輝きなどない。宿っているのは、激しい憎悪と、やり場のない絶望だけだった。
剥き出しの呪詛
「アヴァロンを作ったと聞いた。神の六日間で、お前の国はどれだけ生き残った? 俺たちの村は、お前が『絶対安全だ』と言って避難させたシェルターごと、神の指に潰されたんだぞ!」
次々と家の中から這い出してきた生存者たちが、蓮を囲む。 彼らは知っている。蓮が強大な力を持っていることを。だが、力がありながら自分たちの家族を守りきれなかった「無能な王」としての彼を、許すことができなかったのだ。
「なぜ、お前だけが生きている!」 「王だと? 笑わせるな。お前はただ、自分のために他人を切り捨ててきただけの死神だ!」
卑怯な沈黙
「……王。進軍の妨げです。排除しますか?」
ユリアが淡々と剣を引き抜く。 彼女にとって、目の前の老人たちはもはや「民」ではない。進軍速度を遅らせる「不確定要素」に過ぎなかった。
(やめてくれ、ユリア。そんな風に、冷たく笑わないでくれ)
蓮は心の中で叫んだ。 かつての彼女なら、彼らの怒りを受け止め、共に涙を流しただろう。今の彼女がこうも非情なのは、蓮が彼女の魂を対価として売ったからだ。
(俺は、最低の男だ。彼らの言う通りだ。俺は自分の復讐のために、あいつらを犠牲にして、今またユリアの心まで燃料にしている)
蓮は一歩も動けなかった。 降り注ぐ罵声と石。それを避けることもしなかった。 王としての資格? そんなもの、最初から持っていない。自分はただ、壊れた世界で復讐という糸に操られているだけの、醜い人形に過ぎない。
偽りの慈悲
「……カイルに連絡しろ。アヴァロンから輸送機を飛ばし、ここの連中を収容させろ」
蓮は低い声で命じた。
「ですが王、貴重な燃料と人員を、このわずかな生存者のために割くのは非効率的です。百日後の終末を考えれば……」
「効率の話をしてるんじゃない。命令だ、ユリア」
蓮は泥にまみれた右腕を、無理やりポケットにねじ込んだ。 救いたいわけじゃない。これは、ただの罪滅ぼしだ。 嫌われ、恨まれ、呪われることでしか、自分の罪を認識できない卑怯者の、あまりにも浅ましい偽善。
独り、死地へ
輸送機の到着を待たず、蓮は再び馬車を走らせた。 背後から投げられる「二度と来るな!」という罵声を、勲章のように背中に受けて。
一の傲慢。 二の偽善。 三の孤独。
「……王。貴方の行動は理解に苦しみます。なぜ、敵意を剥き出しにする者たちを救うのですか?」
ユリアが不思議そうに首を傾げる。 蓮はその問いに答える代わりに、遠くに見える4つ目の爆心地――黒い雷雲が渦巻く極北の地を見つめた。
「理解しなくていい。俺が、そうしたいだけだ」
残り九十日。 自分の「王」としての器が、内側からボロボロと崩れ落ちる音を聞きながら、蓮は地獄の底へと足を踏み入れていく。
次なる地、黒雷の爆心地。 そこには、蓮の「内面」を暴き出す、最悪の守護者が待ち構えていた。




