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漂流

 篠田恵美は求めていた。


 育て甲斐のある生き物を。


 ゴミで埋め尽くされた部屋を。


 寂しさで開いた心の穴を埋めてくれる存在を。


 ここ花畑女学園では全寮制であり、一部の生徒以外は二人部屋に住む事になっている。同居人は同学年の女子の場合もあれば、下級生、上級生と同居する生徒もいた。


 しかし、恵美は二人部屋に一人であった。同居していた上級生は既に卒業しており、この春の間、ずっと一人寂しく過ごしていた。信頼する姉がいても、会話が弾む友人がいても、恵美の心の穴を埋める事は出来なかった。


 放課後、休日になると、恵美の足は学園の外に広がる海へと向かっていた。花畑女学園は大きな島全体に様々な建物が建てられており、それらを囲う壁の外には白い砂浜と広い海だけ。恵美はゴミ袋片手に砂浜に漂流したゴミを集め、綺麗になった砂浜に少しの癒しを得る事が出来ていた。


 そして、今日もまた恵美は砂浜へと来ていた。いつものように漂流したゴミや割れた貝殻をゴミ袋に入れていると、割れた貝殻がゴミ袋に穴を開いてしまい、中に集めたゴミが穴から漏れ出てしまう。


「……私、何やってるんだろう」


 集めたゴミが穴から漏れた様は、まるで自分の心のようだと恵美は思った。必要の無い事で心の穴を埋めようとしても、本当に必要な物への渇望が鋭い棘となり、内側から心に穴を開ける。


 遥か遠くまで続く海の先を眺めながら、恵美は思う。この島から出た遠い地に、自分を満たしてくれる誰かを。それは渇望であり、エゴであった。


 深いため息を吐いた後、ポケットにしまっていた新しいゴミ袋を広げて、穴が開いたゴミ袋毎移し替えた。


 その時だった。


「え?」


 次のゴミを探そうと視線を動かした先で、とても大きなゴミが波打ち際に漂流していたのを目にした。


 しかし、それはゴミにしては大きく、生物めいていた。


 否、それは人間であった。


「人が!」


 恵美は慌てて駆け寄ると、胸に耳を当てた。心臓の鼓動は動いているが、体温は夏に近付く季節に似合わず冷たかった。


 すぐに人工呼吸をしようと顔へ視線を向けると、恵美の耳は熱を帯びた。およそ百八十の高身長に、男物の服と長いコートを着たその人物は、非常に顔が良かった。恋の経験が無い恵美は、自覚の無いまま初恋を覚えてしまった。


(どうしましょう……人工呼吸をしなければいけないのに、このお方が……あまりにも……!)


 人命の為とはいえ、顔の良い人間の唇に自身の唇を当てる行為は、否が応でも恥じらいが生まれてしまう。


 恵美が迷っていると、気を失っていた彼女の瞼が開いた。目覚めたばかりでハッキリとしない意識の中、視界に映る恵美の姿に、自然と言葉が出た。


「天使が、いる……」


「天使?」


「……あ? あぁ!? 人間だ!」


 さっきまでの弱っていた姿が嘘かのように、天明の体は勢いよく跳ね起きた。


「俺、船から飛び降りて―――ここ何処―――朝―――がぁぁ! 頭が混乱してんなぁ!」


「あ、あの……」


「あ、アンタ! 日本人だよな? 日本語通じるよな? アンタが助けてくれたんだろ? ありがとなー!」


 天明は恵美の手を握りながら何度も頭を下げると、今度は肩に手を置き、恵美の顔を自分の胸に抱き寄せた。


 怒涛という言葉が似合う天明の言動に、恵美はただただ困惑するしかなかった。 

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