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時すでに遅し

「私の組織に所属すれば、それ相応の扱いを約束いたしましょう。制服を着たくなければ着なくて結構。広い部屋に住みたいのならご用意いたしましょう。ですが、行事には必ず参加しなさい。結果が良ければ、点数だけでなく、アナタが望む物を贈りましょう」


 まるで決定事項かのように、千鶴は天明への待遇と条件を説明し続けた。上から目線・他人からの指図・

信用出来ない喋り方と、天明が嫌う三つの要素を千鶴は見事に的中させていた。


 当然、天明はマトモに取り合わなかった。そもそもここへ来たのも、自分に課せられていた処罰について話しがあると誠から聞かされただけで、長話をするつもりはなかった。ただ、心の何処かで長話になりそうな予感はしていた。


 天明はテキトーな長椅子に座ると、わざと前の長椅子に足を乗せた。言動や立ち振る舞いを重要視している千鶴にとって、無礼で横暴な天明の座り方はゴミであった。


 互いに互いが嫌な思いをしている中、今度は天明が話し始めた。


「俺はアンタの組織には相応しくない人間じゃなかったのか?」


「自覚があるようですね。あとは改善するだけです」


「しねぇよ。お淑やかに紅茶飲む俺が想像出来るか?」


「本題に戻しましょう。アナタには今日から―――」


「話を逸らすなよ。今は、俺が、アンタに、話してんだよ」


 会話の主導権を取り合う二人の静かな戦いは、一旦天明の勝利で終わった。


「俺が言う事は単純明快。アンタの組織には入らない。もしどっかの組織に入れって言われたら、俺はよろこんで誠の方へ行くぜ。まぁ、入んねぇけどよ」


「最近のアナタについては、少し耳にしております。随分とヒマワリの代表に気に入られているようですね。アナタも彼女の外見に魅了されたのですか?」


「それが本当だったら今頃唾つけてるよ。ただ単にほっとけないだけだ。道に捨てられた犬みてぇでよ」


「なるほど。ときに冴羽天明さん。来月の七月一日、運動会が開催される事はご存知ですか?」


「ああ。みんな必死こいて走ってるな」


「外から来たアナタの為に、我が校の運動会について軽くご説明いたしましょう。カーネーション・ヒマワリ・ローゼルの三つの組織から十名の生徒を指名し、四種の競技で順位争いをします。最終的に総合点数が最も多い組織は他二つの組織に規則を設立、そして最も活躍した生徒には多くの点数が与えられます。つまり、ここ花畑女学園では一つ一つの行事が組織及び一般生にとって重要であるという事です」


「へぇ、そうか。俺には関係ない話だな」


「関係は大いにあります。アナタは一度カーネーションの制服に袖を通した。私が課した処罰を取り下げれば、アナタは自動的にカーネーション所属となるのです」


「……は?」


 千鶴の発言は矛盾していた。最初に千鶴は天明をカーネーションに勧誘していた。今発言した千鶴の言葉が本当の事であれば、最初に勧誘した言葉は必要の無い事である。


 だからこそ、天明は千鶴の意図を勘ぐった。天明は千鶴の事を何も知らないが、内面に隠されている狡猾さには勘付いていた。この矛盾した前後の会話には、何か意味がある。そう思えてならなかった。


 考えを巡らせていた天明だったが、既にどうにもならない状況であった。千鶴が言った言葉は事実であり、今も処罰が適用されているのも、天明がカーネーションに所属しているからである。


 では、何故千鶴は矛盾するような会話をしたのか。それは単純に天明が改心したかを確かめる為であった。しかし全く改心した所の無い天明に改めて呆れ、仕方なく事実を述べたのだ。


(やはり理解出来ませんね。恵美はどうしてこんな人間をカーネーションに所属させたのでしょう。まぁ、おかげで運動会の選抜は一人決まった。頭はともかく、身体能力は花畑女学園の中でもトップクラスを期待出来る。しかし、先程から一体何を考えていらっしゃるのでしょう?)


「……あ、そっか」


 酷く間抜けな天明の声が教会に響いた。 


 すると、天明は長椅子から腰を上げると、千鶴に目も合わせず教会から立ち去ろうとしていた。


「冴羽天明さん。どちらへ?」


「帰るんだよ」


「そうですか。それならお部屋の方へ案内を―――」


「そうじゃなくて。居候先に帰んの」


「居候先―――え? ちょ、ちょっと待ってください! 私の話を聞いておりましたか!? アナタはカーネーション所属なんですよ!? それなのに、どうしてヒマワリの領地へ―――」


「色々とアンタの考えを出来の悪い頭で考えたんだけどさ。別に俺、従う必要は無いなーって思って」 


「なっ!? 私は、カーネーションの代表ですよ!? 代表の言葉に従わないのなら、処罰を―――」


「はいはい、好きなだけ罰を与えてくださいな。じゃあな」


「ちょ、ちょっとお待ちを!!」 


 制止しようとする千鶴の声に天明は足を止める事無く、教会から出ていった。千鶴は親指の爪を噛みながら、自分が見落としていたミスを考えた。


 そもそも千鶴は天明を駒にする決断が遅過ぎた。ヒマワリの領地で暮らす天明にとって、カーネーションの代表が下す処罰など無いに等しい事である。

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